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花火祭(2005) 涼団扇飾り 価値:1 重量:0.1 備考 「団扇付き浴衣」の合成に使用 入手方法 TDの宝箱で入手。
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あたしが北校に入学してから1週間ほどがたつ。 そろそろ、部活に入る時期だと思って、いろいろ見てまわって、なかなか決められなかったんだけど、佐伯さんに、 「一緒にコーラス部に入ろ!」って誘ってもらえたから、あたしはコーラス部に入ることにした。 歌にも興味があったしね。 そして、あたし達は一度仮入部して、次の日に入部。 その日は、まず発声練習から教わってたんだけど、そのときに、部室にあの子がきたの。 涼宮ハルヒ 自己紹介を聞いたときはビックリした。 「ただの人間には興味ありません。この中に宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたら、あたしのところに来なさい、以上」 ちょっと怖い人だなって思った。 そういえば、聞いた話によると、いろんな部活に仮入部してるんだったかな? で、あたし達も昨日やったんだけど、ここの部活は仮入部初日の人にはまず、誰でも知ってるような歌を伴奏ありで歌うの。 あたしも横で聞いてたんだけど、すごかったのね。 とってもキレイな声だったのね。胸がドキドキしたのね。 この子と仲良くしたいって思ったのね。 あっ!興奮しすぎて、口癖が・・・ そこで、思ったの。一緒に歌ってみたいって。 だから、あたしは意を決して部長さんに、 「あ、あたしもすず・・・みんなと一緒に歌いたいです!」って・・・ そしたら、あたしも涼宮さんと歌えることになったのね。 もう、あたしその言葉を聞けてかなりうれしかったのね。 佐伯さんが、「ちょっと、阪中!」とか言ってたけど、右から左なのね。 あっ!また口癖が・・・ とりあえず、あたしは不自然なく、涼宮さんの前の位置に立つことにした。 そして、近くに行って分かったんだけど、 これが、あたしより背は低いんだけど、すっごく美少女なのね。 成崎さんもかわいいけど、涼宮さんのほうが美少女なのね。 あたしすっごく涼宮さんに憧れたのね。 後、もうすこしでこの子の歌声がこんなに近くで聞けるって思ったら、ワクワクドキドキしてきたのね。 でも、 「阪中さんは、背高いから、もうちょっと後ろでお願い」 ・・・背が高いことに、こんなにもショックを受けたことはないのね。 でも、一番近い場所で歌えたのは事実。 ちょっと近づきすぎたかな? まあ、でも近づかないと涼宮さんの歌声が聞こえてこないから。 あっ!シャンプーのいいにおい。 この部屋のどこかで、あたしの声の振動と涼宮さんの声の振動が交わっているのね。 そう考えると、なぜかドキドキしてくるのね。 結局、涼宮さんはその日だけしか来なかった。 かなり残念なのね。もっと一緒に歌いたかったのね。 次の日、涼宮さんに挨拶してみたら、 無視されてしまったのねー。 でも、あたしはあきらめないのね。絶対いつかお友だちになってみせるのね。 理想は、涼宮さんになんでもいいからプレゼントしてもらうこと。 そんなことされたら、あたし、それを机の中に大事にしまっておくのね。 ただの紙でもいいから、ほしいのね。 そしていつか、絶対に家に招待するのね。ルソーと一緒に遊んでもらうのね。 あっ!また口癖が。
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プロローグ 二年に進級して早くも三ヶ月ちょい立った。 その三ヶ月の間、何事もなかったってワケではない。 が、それについては脇に置いとおこう。今からする話は久しぶりに生命の危機を感じた事件だ。 いや、ちょっと大袈裟か。だが本っ当に痛かったんだ。もうあんな目には遭いたくないね、一生。 その日は地球温暖化とやらが地味に効きつつあるのか凄まじく暑かった。衣替えで夏服になったものの 白いワイシャツは噴き出る汗でペッタリと素肌に接着されていた。まだ七月中旬でこの暑さ。 梅雨と重なってるので雨もたまに降るが、快適な気温まで低下させるほどのパワーはないようだ。 悪戯に湿度を上昇させ同時に俺の不快指数までチマチマ増えてきている。この調子じゃ夏本番に位置付 けられてる八月はエライ事になるんでないの?俺も地球も。 まぁ結果から言う。地球はともかく、俺はエライ事になった。しかも一ヶ月後ではない。授業が終わって 文芸部室に向かっているのが今の俺。この30分後にドエライ事になる。だけど悪い予感なんてのは一切な かったんだ。感じるのはとめどなく噴き出る汗による不快感だけ。 まぁ、遠からず近からずこれが原因になるんだが。 放課後の文芸部室…と言っても文芸部らしい活動はこの一年三ヶ月の中で一度だけで。 我らSOS団の季節イベントもやるが、もっぱらすることもなくダラダラと過ごしてる。 今日も特にすることはない。することがないならすぐに家に帰ってクーラーに当たりながらゴロゴロするのがベストなのだが 俺の足は部室に向かっている。何故だろうね?習性というのは恐ろしいものだ。クーラーもないあの部室に行ってもやる事は いつも同じなのに。スマイルエスパー野郎からボードゲームの勝ち星を奪いながら未来型メイドの煎れた茶をすする。 そして読書マシンと化した宇宙人の姿を眺める。 これらの作業をこなしながら常に感じるのは、退屈だなぁ、ってことだ。 んでもって、あの団長が頭のネジを撒き散らしながら嬉しそうにトンデモ企画を持ち込むんだ。 気づく頃にはその退屈がいかに貴重かがわかる。 で、部室に着いた。 中にいたのは、トランプを切り続けてるエスパー古泉、茶葉と闘う未来型メイド朝比奈さん、定位置で読書にふける宇宙人長門。 団長ハルヒ以外全員いたわけだ。ハルヒがいない理由は俺も知ってる。ヤツは今教室でワックスがけの最中だ。 ご苦労なこった。まぁ交代制なので二学期は俺も参加せざるを得ないのだが。 「どうですか?久しぶりにトランプでも。最近はずっとチェスや囲碁でしたからね。結構新鮮かもしれませんよ?」 本当にゲームが好きなんだな、古泉。だが二人でトランプってのはつまらんだろ。しかも野郎同士じゃな。 「おや、僕が相手じゃ不満ですか?いつも貴方を楽しませようと努力しているんですが」 無駄な努力だな。その努力を機関に注いで出世すればいい。 「とんでもない。機関の業務より、このSOS団の活動に意欲を注ぐ方が有意義ですよ、今の僕にはね」 「職務怠慢だな。今度新川さんか森さんに会えたらチクってやる」 「それは勘弁してください。新川さんはともかく、森さんはああ見えて結構厳しいんですよ」 「あぁ…なんとなくわかるわ。あの人のオーラは身の危険を感じちまう」 二月の事件での森さんは今までのおとなしいメイドキャラとは一変していたからな。 「話が逸れましたね。で、どうします?トランプ」 「あぁ。相手してやるよ」 どうせ暇だしな。 ここで俺は他二名の団員に目をやった。 長門は先週俺と行った図書館で借りた凄まじく分厚い本(ジャンル不明)を読んでいる。 朝比奈さんは茶葉に適する温度を見極めようとヤカンを睨みつけている。 この二人も誘ってみるか。 「朝比奈さん、一緒にトランプしませんか?」 「えぇと、今お茶の準備してるので遠慮しますぅ。だって、皆さんには出来るだけ美味しいお茶を飲ん でほしいから…」 素晴らしい!その奉仕精神はまさしくメイドそのものだ。 「じゃあ仕方ないですね。美味しいお茶、おねがいします」 「はぁい。もう少し待っててくださいね」 「長門はどうだ?トランプ」 長門は本から視線を外さずに「………いい」と言った。 「二人じゃ盛り上がらんだろ。お前もたまには…」 「…今、いいところ」 ……そうですか。 あの長門が面白いというほどだ、よっぽど熱中しているようだ。まぁ、たぶん俺には何が面白いかわか らん内容だろうが。っていうか何語だ?それ。 長門の勧誘を諦め古泉に目を戻すと、ニヤニヤしながら俺にトランプを配り始めやがった。まるで最初 からこうなる事はお見通しだと言わんばかりに。 まぁいい。当分トランプを見たくなくなるぐらいに痛めつけてやる。 「暑いな。クソ暑い。どうにかならんのかこの暑さは」 朝比奈さんのお茶を飲みながら古泉との大富豪の毎ターンに愚痴を呟く俺に古泉は苦笑しながらいちい ちそれに答えある提案をしてきた。 「僕も参ってしまうぐらい暑いですよ。ではどうでしょう?この勝負に負けた者がアイスを買ってくる というのは?」 お前、全然暑そうには見えんぞ。涼しい顔しやがって、汗もかいてないじゃないか。 でもその案は俺も乗った。ちょうど冷えたアイスが食いたいと思ってたところだ。 「ではちょっと本腰を入れてかかりましょう」 手抜いてやがったのか。だが既に俺の方がかなり有利な戦況だ。俺の勝ちだな。俺のために汗水垂らし てアイスを買ってくるがよい、古泉。 ………こういう時だけ負けるのはどうしてだろうね。古泉の野郎は最後の最後に大逆転をかましやがった。 今まで負け続けてたのは今日のこの勝負の伏線だったんじゃないのか? 「そんな事ないです。正真正銘まぐれです。僕は買いに行く覚悟してたんですが。勝負というのは時に 予想のつかないものですよ」 そういう要らんこと言うから胡散臭さが増すんだ。そのツラ見ながらだと馬鹿にしてるようにしか聞こ えん。 「それは失礼しました。まぁ勝負ですからね。この暑さでは買いに行くだけで罰ゲームですし、お代は 先に渡しておきましょう。ついでに皆さんの分をお願いしますよ」 そういうと古泉は千円札を差し出してきた。ラッキー。勝負を受けたものの、生憎俺の財布には合計百円 ちょいしか入ってなかったからな。このままバックレちまおうか。 だが皆の分と言われるとそんな悪どい事はできん。古泉になら別に恨まれても知ったこっちゃねぇが 朝比奈さんに非難されるのは絶対避けたい。長門も結構根に持つタイプだし。 しゃあないな。ちょっくら行ってきますか。 「あ、涼宮さんの分もお願いします。仲間外れにされた、なんて思われたくないですからね」 古泉は肩をすくめ苦笑しながら言った。わかってるよ。アイツはすぐすねるからな。 しかもそれだけで世界を危機に晒しかねないのがハルヒクオリティだ。 余談ではあるが皆にどのアイスがいいか聞いてるとき、面白い事があった。 古泉はソーダ系、朝比奈さんはバニラ系。ここからが面白かった。 どうせ「何でもいい」と言うだろうなと思いつつ長門に注文に訪ねた。 「……ガリガリ君」 思わず吹いたね。別にガリガリ君には非はないんだ。アイスの定番だしな。しかし長門がその名を口にすると、何とも笑える。なかなか長門もわかってるじゃないか。 古泉はクックッと笑いを堪え、朝比奈さんに至っては顔を真っ赤にして口を押さえている。 長門は状況を理解していないようで首を傾げ、笑いっぱなしの俺の顔を見つめている。 「……ガリガリ君…ガリガリ君…」 ガリガリ君食いたいのはわかったから、ワイシャツを掴みながらすねた感じで連呼しないでくれ。面白い&可愛いのダブルパンチで俺の思考がどっかに飛んでっちまう。 「わかったよ。ガリガリ君だな?」 長門は俺にしかわからない、困った顔で頷き読書を再開した。 なんか無駄に興奮したもんで、余計に暑くなっちまった。さっさとガリガリ君買ってくるか。 このまま今日が終れば、非常に有意義な一日だったろう。 悲劇はこの数十秒後に待っていた。 俺は、いい意味での長門らしくない発言を噛み締めながらアイスを買いに行くため廊下に出ようと部室のドアを開けた。すると目の前に一人の女子生徒が立っていた。 回りくどい言い方だな。ハッキリ言おう。俺の目の前にいたのは…… SOS団団長 涼宮ハルヒだ。 なかなかこのタイミングはない。いつもなら俺たちがノンビリしてる頃にハルヒは横真っ二つに割る勢いでドアを蹴り開けるわけだが、この時の様子は少し変だった。 ハルヒは両の目を固く閉じ、深呼吸をしている。それに合わせて肩の大きく上下させていた。 俺はというと、そのハルヒの様子を何も言わずただ見ていた。ハルヒは俺に気付いていない。 俺の背後にいる三人も、いつもと様子が違うハルヒをじっと見ていた。誰も一言も発しなかった。 まさしく、嵐の前の静けさ。 呼吸を整えたハルヒの表情は目を閉じたまま、ゆっくりと満円の笑みに変わった。 そして……… 「みんな、ごっめーん!遅れちゃったー!」 そのハルヒの大声を目の前で聞いている途中、俺は凄まじい衝撃に襲われて目を閉じた。 ゆっくりと瞼を上げて目に入った光景。 ハルヒの太陽のような笑顔。 まだ固く閉じた瞳。 前にピンと伸ばされた綺麗な右足。 状況を把握できない俺はゆっくりとその右足を辿る。 スカート、太股、膝、ふくらはぎ、白いソックス、運動靴。 そして辿り着いた先に見えたのは……… 俺の、いや、男にとって大切な、それでいて一番の弱点である『そこ』に、ハルヒの伸ばされた右足のカカトが、深く、深く突き刺さっていた。 「教室のワックスがけが長引いちゃって……え?」 ハルヒはここでようやく、瞼を上げた。 「え?…ちょ、キョン!?あん…た…そんな、とこで…なに……あ!」 一瞬で笑顔が動揺した表情に変わる様を見届けた俺は、もの凄い速度で膝を床に打ち付け、倒れこんだ。 『そこ』に受けたダメージは俺の全身のコントロールだけではなく、思考を奪っていった。 あれ…俺…アイ……ス買いに…行く…ああ…ハル…ヒ…いつもドア……蹴っと…ばして…たんだ…っけ…… 「ちょ、ちょっとキョン!大丈夫!?なんでアンタあんなとこに!……何これ…温かい…?アンタまさか漏らし…て…え?赤…い…?え……ち、ちち血ぃ!!??」 「涼宮さん!落ち着いてください!朝比奈さん!救急車を呼んでください!早く!」 「え…あぅ…キ、キョン、君……うぅ」 「朝比奈さん!早く!救急車を!」 「………私が呼ぶ」 「長門さん!お願いします!」 俺の頭上で叫ぶ古泉、携帯をかけている長門、泣き出す朝比奈さん、尻餅をつきながら手の血糊を見つめているハルヒ。 薄らいでゆく視界。遠のく意識。その中で、俺は思った。 俺のアソコとドアのどちらが丈夫だろう、と。 俺は下半身に突き刺さる様な激痛でうめき声を上げ、それで目が覚めた。 薄くオレンジ色を帯た白い天井が見えた。部室の天井より綺麗だが、眺めてるとどうも気が重くなる。 天井からゆっくりと壁に視線を映すと、窓が見えた。もうすぐ日が沈むようだ。 窓からは天井をオレンジ色に染めていた太陽が低い山に隠れていく、夕暮れの風景が広がっていた。 昨日、下校途中に見た空と同じだ。いつもなら俺はそろそろ家に着く頃だろうが、今おれがいるここはどこだよ。 やはりまだ頭がぼんやりしていたのだろうか。 その窓がある壁に無表情な少女が寄りかかっている事に気付くまで、だいぶ時間がかかった。 声をかけようとして口を開いた丁度その時、背後から声がした。 「目を覚まされたようですね。どうですか?具合は」 下半身の激痛を堪えながら振り返ると、明らかに作り笑いをした古泉が立っていた。その隣には涙目の朝比奈さんがいた。 「良かったぁ…キョン君大丈夫?本当にあの時はどうなることかと…」 朝比奈さんは安堵の表情を浮かべて言った。……だがなんかぎこちなさが残る表情だ。 あの時……っていつだ?俺がどうなったって?駄目だ、頭の中がモヤモヤしてて思い出せん。 何も言わない俺を見かねて、古泉が勝手に喋りだした。 「まだ状況を飲み込めていないようですね。ここは病院です。本当にあの時は大変でした。 まさか涼宮さんの蹴りにあれほどの破壊力があるとはね。 貴方がうずくまったと思ったら意識を失ってしまって、さらに出血までしていたんですから。流石に僕も焦りました」 そうだ。俺はハルヒに蹴られた。で、その蹴りが俺のアソコにジャストミートしたんだ。 ったくあの馬鹿力が、意識失う程の金的攻撃を普通人の俺に食らわせるとはね。そうそうないぜ、こんな経験。しかも血まで…… ……血。ここに来てようやく俺の頭が正常に機能し始めた。 血が出たって事は、血尿か?生憎俺は医学知識に乏しい。アソコから血が出たってのはどれ程危険なんだ?いや、そんなに危なくもないのか? 全然わかんねぇや。こりゃさっさと賢そうなヤツに聞いた方がいい。やっと頭がハッキリしたが、元々の出来はたかが知れてる。 「なぁ古泉。俺の、その…ア、アソコなんだが…どうなったんだ?」 この部屋には女の子が二人もいる。ふと気付いて口ごもってしまった。 谷口じゃあるまいし、俺は異性の前で堂々と下ネタを言える程デリカシーにかけちゃいない。 別に下ネタを言ってるわけでもないんだが。 朝比奈さんが恥ずかしそうに顔を赤らめてうつ向いてしまった……なんて展開だったらいい感じに和めたのに。 室内の雰囲気が超ブルーだ。室温までも急降下してる気がする。 古泉の顔から笑みが消え、考え込むような仕草を数秒間とった後、真剣な眼差しを俺に向けた。 「僕がこれから言う事、落ち着いて聞いてください。恐らく、貴方にとって大変ショックな話でしょうが……」 「なんだ急に改まって。前置きはいいから早く言え。話が進まんだろ」 表面上、俺は楽観的に振る舞ったが内心すごくビビってた。末期癌患者が余命宣告を受けるのもこんな感じなんだろうか。 「……貴方の、その、性器…なんですが、損傷が激し過ぎて…その…これ以上の治療は困難らしいんです。ですので…もう切断しかない、そうです。担当医の方が、言ってました…」 俺は余命宣告ならぬ、男性ドロップアウト宣告を受けた。何故か古泉から。 「救急車の中で、恐縮ですが患部を拝見させて頂きましたが、かなり酷い様相でした。素人目で見ても、もう手遅れだ、と思います…」 古泉は申し訳なさそうな表情で、古泉らしくない歯切れの悪い説明を続けた。 「一度手術室に入ったんですが、医師も手の施しようがない状態だったそうで応急的な処置に止まったようです。ですがこのままでは感染症を起こすのも時間の問題らしく、準備が出来次第、再手術……切除…の予定、だそうです…」 目の前が真っ暗になったね。もう日が沈みきっていたので室内はかなり暗かったが、それ以上の闇が視界を覆っていた。 俺は天を仰ぎ、目を固く閉ざした。そうでもしなきゃ涙が出ちゃう。だって、男の子だもん。 「…ハルヒはどうした?俺をこんな目に遭わせといて、逃げたのかよ?」 古泉は溜め息を吐いた後、俺にハルヒの居場所を教えた。 「涼宮さんは病院の外にいます。貴方に合わせる顔がない……と。かなり落ち込んでましたよ」 「キョン君…涼宮さんはワザとやったわじゃないの。許してあげて…とは言えないけど、あまり涼宮さんを責めないであげて…ね?」 こんな状態の俺よりハルヒが心配ですか。そうですか。 「みんな、出てってくれ。ひとりになりたい」 「そうですね…恐らく、もうそろそろ手術室の準備が終わる頃ですし、それまでお一人で考える方が良いでしょう。僕らがどうこう言える問題ではありませんから……」 目を閉じたまま、古泉たちがドアから出ていく音を確認した。 その瞬間、不意に右目から一筋の涙が流れた。本当は大声で泣き叫びたいが、下半身を支配する激痛によって断念した。 これは古泉たちのタチの悪いドッキリか?手術室に運ばれて、無駄にデカイハサミを持った医者が俺に迫ってくるんだ。 もう駄目だーってところで古泉が派手な札を持って現れ、長門がカメラを回してて、朝比奈さんが申し訳なさそうにしてて。 いや、違う。ドッキリなんかじゃない。この痛みは本物だ。残念ながら。 しっかし、ハルヒがこの場に居なくて良かった。今、俺の頭の中ではハルヒに対する罵詈雑言が文章を成さずに乱れ飛んでいる。 アイツの面を見てしまえば、それらが憎むべき敵を破壊するために俺の口から一斉に放たれるだろう。 激痛が走ろうとも、その全てを思い付く限りの罵声に変換にしながら、俺は止まらない。自制できる自信などない。自制する気もない。 少しずつ落ち着いてきた。だが、落ち着く程に悲壮感が増す。 俺は今まで、自分の将来を真剣に考えた事はほとんどなかった。大学受験の準備に全く手をつけていないことからもそれは明白だ。 何故かって?決まってるだろ。今がとても楽しかったからだ。 宇宙人や未来人や超能力者と仲良くなって、たまにそれらの敵対勢力が攻撃を仕掛けてくるんだぜ? 昔誰かが記した何の役にも立たん戯言を覚えてる場合ではないんだ。 そう思いながらも、俺の頭の隅には人生計画があった。 普通に働いて普通に結婚して普通に子供つくって普通に老けて普通にあの世行き。 別にそれでいいと思えるほど、この一年間はとても楽しかった。俺なんかにはもったいないぐらいに。 でもそれもいつかは終わるのはわかってたさ。 でも、なんだよこのオチは。 アソコ切断だ?そんな状態で、どうやって男として生きていける?子供なんか作れないし、そもそも結婚なんてできやしない。 全てハルヒのせいだ。アイツには感謝してるさ。俺を非日常に巻き込んでくれたからな。退屈しなかったさ。 だが、そのハルヒの蹴り一発で俺のこれからの人生は暗く閉ざされた。 なんでだよ。ふざけんな。畜生。 「ち…く、しょう……」 食い縛った歯の隙間から言葉が漏れる。きっと酷く不細工な面になってんだろうなぁ、今の俺は。 …全て私の責任…」 ん? なんか今、声しなかったか? ずっと目閉じてたから気付かなかった。 無表情の少女が窓の横に立っていた。 出てってなかったのかよ…… 「長門。お前、なんでまだここにいんだ?さっき出てけって言ったろ」 「私は貴方に話す必要がある。それが私が此処にいる理由」 あぁそうかい。何だ、話す事って。 「今回の事象は私の責任。あの時間、あの場所に涼宮ハルヒが存在していたのは貴方がドアを開ける前から感知していた。でも私は何のアクションもとらなかった。とっていれば高確率で今回の事象を防げた。何もしなかったのは私の怠慢。だから、私の責任」 だから何だってんだよ。お前が俺に詫びたところで、何も変わりゃしな………いや、待てよ。 長門にはサイヤ人も倒せるインチキパワーが使えるんだ。もしかしたら……… 「お前の責任だとして、だ。ただそれを言いに来ただけか?」 期待と不安が俺の中で激しく攻めぎ合う。ここで長門の口から俺の望む答えが出なかったら、自害も視野に入れよう。そうしよう。 「情報統合思念体から許可が下りた。これから貴方の下半身の損傷部位の再構成を施す」 あぁ……神様仏様ご先祖様長門様!!本当ですか!?直してくれるんですか!?長門様以外の三名は特に何もしてくれてないけど、ついでに拝ませていただきます!! ……落ち着け俺。古泉説によると神様は俺のアソコをぶっ壊した元凶だ!除外! 「現在の貴方の男性器の状態は尿道、睾丸、陰茎表面の損傷と多岐に渡る。このままでは排尿機能、生殖機能ともに機能しない。それに損傷部位から悪性の細菌が侵入する可能性が高い。 感染症を引き起こし、貴方の生命活動に支障をきたす可能性は現在無視できる程度の数値。しかしこれ以上時間の経過は数値の上昇を加速させる。よってただちに再構成を開始する」 本当にヤバい状態なんだな、俺のアソコは。 長い専門用語で、ある程度の説明を終えた長門は俺が寝てるベットに寄って来て……って、長門!なぜに俺の服を脱がす!? 「貴方が今着ているのは、この施設の入院患者に着用させている指定衣服。再構成する際、損傷部位を露出させる必要がある。だから貴方の衣服を脱がしている」 言いながら長門はテキパキと俺から入院患者用の服を脱がしてゆく。まぁ長門がそう言ってるんだし、ここは大人しく従うべき……って、損傷部位の露出!?簡単に言えば、長門に俺の瀕死状態で虫の息になってる息子を見られるってことじゃねーか! 「大丈夫。私は気にしない」 いや俺が気にするよ。ってか俺のアソコは直視できる状態なのか?古泉によると明らかにヤバい状態らしいが。 いつの間にか俺はほぼ全裸にされていた。露出されたアソコにはガーゼやら透明なフィルムやら細いゴムチューブやらが一斉に集中してて、なんともいえない賑やかな様相だ。 「……長門。このガーゼやらシートやらチューブやらも、外さなきゃいかんのか?」 「この程度の障害物は問題ない。この上から再構成を行う。心配ない」 なら安心だ。自分の息子の無惨な姿を見ずに済むし、長門に見られずに済む。ついでに言うと俺はグロいのは苦手なんだ。 長門は俺のアソコに手をかざし、ゆっくりと目を閉じた。俺は全裸になるのを防ぐために脱がされた服を上半身に当てがりながら、長門の様子を観察していた。 長門は気功やらの先生がそうするような感じで、かざした手をゆらゆらと小さい円を描くように漂わせていた。 なんか心霊治療を受けてるみたいだ。これでロウソクや怪しい雰囲気の音楽がセットされてたら、いつぞやの長門式民間療法とそっくり。 こんなに冷静に、いや、他人事のようにしていられるのはどうしてだろう。 長門の横顔を眺めながらそんなことを考えてると、長門は揺らしていた手をピタリと止めた。 一息つくような仕草をとった後、あの超々高速早口を放った。 その瞬間、長門の掌と俺のアソコが光り出した。その間を光の粒が漂いながら往復を繰り返している。幻想的で見とれそうだが、一番光ってるのは俺のアソコだ。途端に凄まじく恥ずかしくなった。 「……終わった」 「…そ、そうか。色々すまん」 いつの間にか再構成とやらは終っていた。俺は途中で恥ずかしくなって、抱えこんだ服に顔を押し付けてたから治癒を見届ける事はできなかった。 自分のアソコがギンギンに光ってるんだぞ?しかもすぐ横に年頃の女の子がもうちょいで触れそうなところまで手を伸ばしてんだ。そんな異常な状況に耐えられるほど場慣れしちゃいない。 随分暗くなっていたんで、俺はベットに備え付けてある小型の蛍光灯のスイッチをオンにした。 目が闇に慣れていたせいか、眩しくて思わず光源から目を反らした。 長門も同じようにそっぽ向いた。意外だ。長門も眩しく感じることがあるのか。視力なんかアフリカのナントカ部族よりも良さそうだし、色んな機能が備わっていそうだがな。 だが、長門のそっぽ向いた理由が瞬時にわかった。いやこれは俺が思いついただけのことで、長門はそんな理由でそっぽ向いたんではないと思う。 俺、今、真っ裸。 俺はベットから飛び降り、速攻で抱えていた入院患者用の服を着た。気付くのが大分遅れたが、俺をベットに縛りつけていた激痛は全く感じなかった。 よっしゃ完全回復!俺は小さくガッツポーズをとり、長門に懇切丁寧に礼を言おうとして振り向いた。 「……全て私の責任。…だから、もし…」 まだ責任がどうとか言ってんのか。お前は俺を治してくれただろ。それに、そもそもお前に何の落ち度もない。お前がさっき言ってた責任の理由だって、無理矢理こじつけたようなもんだ。その理由が通るんなら、小泉も朝比奈さんも、俺も同罪だ。 あの時誰かがハルヒに声をかけていれば、黙っていなければ、俺が蹴られることはなかった。それは俺にも言えること。むしろ俺自身が一番、あのアクシデントを回避できる立場にいたんだ。ハルヒの目の前にいたんだからな。 はは、現金だな俺って。さっきまで全部ハルヒのせいにしてたってのに。治った途端に、俺が一番間抜けだってことに気付いた。どうかしてた。ハルヒの行動なんかある程度予測できたはずだ。 アイツがドアを蹴り開ける場面なんて、飽きるほど見た。なのに俺はその間合いに入っちまった。なんて馬鹿なんだ。 しかし、腑に落ちないことが一つある。何だってハルヒはドアの前であんなことしてたんだ? 深呼吸してた。目もガッチリ閉じてた。ありゃなんのまじないだ? 納得いく推論が全く浮かばん。 長門の聞き取りづらい発声で我に返った。そういや、責任の後にまだ何か言ってたな。 「すまん長門。ちょっと興奮気味で聞いてなかった。もう一度、最初から頼む」 長門は少し戸惑うように視線を漂わせた後、さらに音量を下げて続けた。まるで独り言を呟いているように。 「…全ての責任は私にある…だから…もし、再構成された生殖機能に貴方が不安を感じるなら……」 感じるなら? 「……私の体で性交渉を試行しても…構わない…」 ……………はぁ? 性交渉って、つまりその……アレのことか?何故それを長門としなきゃならんのだ。 「情報統合思念体の許可を経て行われる有機物質の再構成は必ずしも完璧とはいえない。もしも貴方に対して行った再構成に不備があったら、子孫繁栄に悪影響を及ぼす危険がある。今のうちに検査と確認を行う方が得策」 長門はいつもより小声で早口だった。しかも俺の目をみていない。 気のせいであってほしいが、蛍光灯の光に照らされて白く輝く長門の頬はやや赤みが差している気がしないでもない。なんかあの世界の長門とダブって見えちまう。 この状況にこの提案。もうね、この一言に尽きるよ。 それ、なんてエロゲ? そりゃ俺も健全な一男子高校生だ。ついさっきまで健全じゃなかったのは置いといて、そういう事柄には興味をそそられるさ。 本音を言っちゃえばさ、俺みたいな冴えないヤツが長門ほどの可愛い女の子とどうにかなっちゃうのなら、それはそれで嬉しい。 事実、俺は長門に対して少なからず好意を抱いているし。 だが、「試しにヤッてみる」となると話は別だ。ここはハッキリと長門に言うべきだ。俺自身が本能を抑え込み、理性を保つためにも。 「いや、遠慮しとくよ」 「…………そう」 何でだ!何でそんな悲しそうな目をするんだ長門! しかも俺、ちょっと後悔してるし! 駄目だ。煩悩を振り払え。俺はまだ長門に言わなくちゃならないことがあるんだ。 「…長門よ。性交渉ってどんなものか解ってるか?」 長門はようやく無表情に戻り、答えた。 「理解している。有性生殖の機能を持つ生物、特に哺乳類がそれに当たる。異性の生殖細胞と組み合わせて自らの遺伝情報を後世に残すための本能的行動」 そうじゃないんだ。俺が訊きたいのはそんなことじゃない……!っていうか文系の俺にはよく理解できない……! 「じゃあ長門。質問を少し変えるぞ。性交渉は、どういう相手とするんだ?」 「さき程述べた通り、自分とは異なる性を持つ者。つまり異性と」 「理論的な話じゃないんだ!お前の感情論で言ってくれ!」 つい声を荒げてしまった。しかしこのままではこの議論は堂々巡りになってしまう。うやむやにはしたくないんだ、俺は。 「…私の感情論?」 そうだよ。自分の感情を言葉にするんだ。本やデータの引用じゃない、お前が思うことを。 「……私は情報統合思念体によって造られた対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェイス。感情は対象の観察に不必要」 「いい加減にしろ!!」 俺の一喝に警戒したのか、長門は体はピクリと揺れた。 俺は完全にキレちまった。先程理性を保つためとかいっておいて、結局は本能を剥き出しにしてしまった。しかもこんな女の子に対して。最低だ。だが、長門に「結論」を出させるためなら、仕方ない。 「感情は必要ないだと?お前はそうやって俺の質問から逃げるのか!?だったら!俺たちと一緒にいたり、色んな本を読んだりしてきたお前の時間は何だったんだ!! そうしてる間、お前は何も感じなかったのか!?俺たちと一緒にいたのは親玉に報告する義務だったからか!?そんなもんだったのかよ!!違うだろ!!」 息継ぎナシで怒鳴り続けたせいか、頭がクラクラする。言ってることも滅茶苦茶だ。自分がなに言ってんのか、わからなくなってきてる。 「感情がないはずがない!お前は一人の人間なんだよ!俺たちの仲間の長門有希なんだよ!」 もう意味がわからん。どうにでもなれ。 「エラーなんかじゃない!それはストレスっていうんだ!人間なら生きてる上で誰でも感じるもんなんだ!」 はは……情報連結解除だっけ?あれ、今すぐ俺にやってくれ。 「……私…は…人間…?」 長門は声をほんの少し、震わせて言った。今、長門は黒い宝石のように輝く瞳を俺に向けている。潤っているんだろうか、それとも蛍光灯がすぐ近くだからだろうか、いつもよりキラキラと輝いていた。 俺はベットの向こうに佇む長門の呟きに答えた。 「そうだよ、長門。お前は人間なんだ。ちっとばかし複雑な事情があるだけの、な」 長門は泣いていた。泣きじゃくるわけでもなく、鼻をすするわけでもない。ただ涙腺が刺激されて分泌された体液が流れ出しただけ、そんな機械的な感じ。 ……いいや、違う。機械的なんかじゃない。何故かって?だって、その姿は、爆発していた俺の感情を優しく静めてくれたからさ。 女の子の涙を見て落ち着ける俺は不謹慎か?悪趣味か?違うね。その涙には悲しみなんて成分は含まれてないんだ。成分表示なんか記載されてないが俺にはハッキリ見える。嬉しい、っていう成分表示が。 「やっぱりあるじゃないか、感情」 俺は意識せず呟いた。脳のナントカ神経の仕組みなんか知らねぇ。だがな、涙腺を刺激するものぐらいは知ってる。感情だ。 俺は右手を目一杯伸ばし、長門の頬を伝う涙を人指し指でそっと拭った。普通だったらティッシュかハンカチで拭うが、俺はその涙に触れたかった。やっぱり俺って悪趣味? 長門は抵抗せず、目を閉じて俺が拭い終るのを待っていた。 長門の涙を拭い終えた俺は、深呼吸した。そしてベットに両の掌と頭の天辺を押し付けて一気に喋った。 「長門!本ッ当にすまんかった!怒鳴ったりして!俺どうかしてた!」 そして勢い良く頭を上げ、俺的に最高の笑顔を作って更に続けた。 「それと!俺の体直してくれて!本ッッ当にありがとう!」 俺はこんな体育系な事はしないが、仕方ないだろ?今の俺は嬉しさと恥ずかしさの相乗効果でハイになってんだ。 長門はいつもの無表情に戻り、 「………いい」 とだけ言った。一瞬、あの世界で一度だけ見た長門の微笑が俺の前に浮かんだのは気のせいだろうか。 「…一つ、教えて欲しい」 何だ?俺がわかる範囲なら何でも教えるぜ。平行宇宙がこの宇宙からどれぐらいの距離にあるのか、なんてのはパスな。 「さっき貴方が私にした質問の答え。私にはうまく言語化できない」 えーと……俺の質問って…なんだっけ? 「……性交渉はどのような相手と交すのか、という質問。私は、成熟した生殖機能を持つ異性、という答えしか導くことができない」 あぁ……それか。完全に忘れてた。 「そうだな…だが、それは俺の知ってる答えだ。お前がそれを鵜呑みにすることはないぞ。あくまで参考として、答えは長門自身が出すんだ」 「……承知した。努力する」 「えっとだな。その相手ってのはな、まぁ…なんだ、一番愛しいヤツの事だな」 「…愛しい?よく理解できない。別の言語に置き換えることは可能?」 まだ続けなきゃならんのか…俺、滅茶苦茶恥ずかしいんだが。仕方ない、腹をくくるか。そもそも長門との議論を今の流れにしたのは俺だし。 「そうだなぁ。簡単に言えば、自分の人生の中で、コイツとはずっと一緒にいたいって思える事、かな」 「……その答えでは、貴方は私とは一緒にいたくない、という結論が発生する」 なんでそうなるんだ?俺がそんなこと思うはずないだろ。絶対ない。一体どんな方程式を使った? 「……貴方は私との性交渉を断わった。つまり……私に『愛しい』という感情を抱いていない、ということになる」 あ~、そういう風に受け取っちゃったか… 「違う違う。そんな意味で断ったんじゃない。そういう行為はまだ早いってことだ。俺も、長門も」 「……早い?」 長門は数ミクロン首を傾げ、目でその意味を訊いてきた。 「つまりだな、そういう行為には順序ってもんがあるんだよ。仲良くなって、手を繋いだり、その…キスしたり…抱き、あったりしてだな、お互いの気持ちを確かめ合って、するんだ。俺は……そう思う」 間違ってないよな?なんか綺麗事言ってるかもしれんが、考えてみてほしい。 「好きです。ヤらせてください」 「是非。喜んで」 なーんてあるわけないだろ。あったとしてもだ、そんなの全然高校生らしくねぇ。全然甘酸っぱくねぇ。それとも俺が遅れてるのか? しかも長門はわざわざ俺の将来に配慮して、あんな事言ったんだ。感謝するべき事かも知れないが、簡単に言えばそれはバグチェック。さっきの例文に照らし合わせると「好きです」の部分がないってことにもなる。 「ヤらせてください」 「是非。喜んで」 行為にのみ重点を置いてるだろ?まさしく、それ何のエロゲ?ってわけだ。俺、嫌だよそんなの。 だが、ここで長門は俺の気持ちを無視したかのような、とんでもない発言をした。 「交流は図書館で深めた。手は世界改変の修正後、病室で繋いだ。朝倉涼子の襲撃後、教室で貴方は私を抱き寄せた」 なんだなんだ。何が言いたいんだ、長門。 「まだ消化していない順序は、キスのみ」 呆れた。そんな、流れ作業の手順みたいに言うとはな。お前はそんなにバグチェックがしたいのか? 「そうじゃないんだって。肝心なとこがわかってねぇ。全然わかってねぇ」 俺は首を振りながら長門に言った。 長門は意外にも反論した。 「わかっていないのは貴方」 長門は抗議するような口調で答えた。怒ってるのか…?こんな高圧的な口調で言われたのは初めて……いや違う。前にもあったな。確か……映画撮影の時、か? さっきの涙でふっきれたかのように長門は厳しい口調で続けた。 「貴方は言った。私という個体には感情があると。それは私も気付いていた。情報処理にエラーが頻繁に発生している。私に元々備えられていたソフトだけの動作ならエラーは発生しない。 つまり私の把握していないソフトが動作している。これが感情と呼称されるものかは不明。だから私は確かめたい。感情というものなのか、それとも単なるバグなのかを」 長門の長い独白は俺に大打撃を与えた。長門がこんなにまではっきりと自分の意思を表明したのは初めてかも知れない。 そして俺は驚いていた。長門が自分自身と向き合っている事に。俺はさっきあんなに偉そうな事言っておいて、いざ長門が自身の感情を探っていると知ると、意外だなって思った。長門はそんなことしないって思ってた。 それはつまり長門のうわべの属性ばかり見ていたってことだ。結局俺は長門の本心を全然わかってなかった。全然ダメじゃん。 「私はそれを確かめる手段として提案をした。貴方は提案を了承こそしなかったものの、私の知らないことを教授してくれた。感謝している。でも貴方はわかっていない。私は決して生半可な考えで提案したのではない」 あんな自分勝手で何でも解ってる風な戯言に感謝していると言われても嬉しくない。だが、言ってしまったことは取り消せない。ならどうすればいい? 決まっている。長門の提案に今度こそハッキリと答える。一度断わったが、それは自分のエゴで答えただけだ。 俺にとって長門の存在ってなんだ?命の恩人?頼れる仲間?俺が所属するグループの一人? 俺はSOS団の今の関係を壊したくない。今のままでいたい。だが、そろそろ変わらなきゃいけないのかもしれない。関係も、俺の保守的な気持ちも。 壊すのではなく、次のステップへ もう言いたいことは言ったのだろうか、長門は黙って俺を見ていた。 俺は息と思考を整える。覚悟を決めろ。言うんだ。 「長門。性交渉はダメだ。これは俺が真剣に考えた、お前の提案に対する答えだ」 「………そう」 「だが、キスは…いいぞ」 長門の瞼は数ミクロン持ち上がった。 「その…お前がいいのなら」 「………なぜ?」 「前に言ったよな。長門のためなら出来る限りの事はするって。今まで命を救われてきたお礼だって。だから、もしそれでお前が大切な何かを発見できるなら、俺は構わないよ」 この後に及んで、俺はまだ恩着せがましいことを言ってる。ずるいよな。フェアじゃない。 「長門だけじゃない、俺も何かを見付けられるかもしれないんだ。見付けられないかもしれない。五分五分だ。でもやってみなきゃ始まらない。いいか?」 「…いい」 長門はハッキリと頷いた。 俺と長門はベットを挟んだまま、ベットに手をつき体を支えながら少しずつお互いの顔を近づけてゆく。 くそ、覚悟してたけどやっぱり緊張するぜ。 長門が目を閉じたのに倣い、俺も目を閉じる。数センチずつ近付いていたのが数ミリずつになっていく。 俺は薄く瞼を開け、長門の唇の位置を確認して位置補正、再び瞼を下ろす。 長門は震えていた。目を閉じててもわかるほど。俺も震えてた。どちらも、無理な体勢からくる震えではない。 もうすぐ、くっつく。 俺は、変われるのか。どう転ぶかわからん。そんときはそんときだ。 ……いくぞ!「待って」 ………へ? 「涼宮ハルヒが情報封鎖空間に接近している。失念していた。かなり近い。あと43秒で接触する」 長門は一瞬でいつもの調子に戻った。 俺はワケが解らず、そのままの状態をキープ。 「今から貴方に説明しなければ矛盾が生じてしまう。貴方は早くベットに横になって」 俺は言われるがままにベットに潜り込んだ。一体何が起きたってんだ。わけわからん。 「貴方の損傷部位の再構成する際、他人の干渉を遮断するために情報封鎖を行った。ここでの会話が外部に漏れることはない。接触まで33秒」 確かに、俺は怒鳴りまくってたからな。あれが外にいるひとに聞かれるのは精神的にキツい。例え誰もそのことに触れなくても、だ。だがここで疑問が発生した。 「俺って再手術受ける予定だったんだよな。どうすんだ?治っちまってるぞ」 大丈夫。広範囲の人間にあの事故の該当記憶を消去し、擬似記憶を組み込んだ」 ってことはハルヒが蹴られた事実はなくなってるのか? 「涼宮ハルヒが貴方に危害を加えたことは事実。しかし原因を覆すのは困難。よって、結果を操作した」 ということは。何だ?途中で切ってもわからんぞ。全然わからん。 「貴方は涼宮ハルヒに蹴りを浴びたことで痛みを堪えようと異常な腹圧がかかり、軽度の腸捻転を引き起こした。貴方は救急車両でこの病院に運ばれ緊急手術を受けた。その手術は成功。今の貴方は術後管理下に置かれた状態」 「それが擬似記憶。貴方はその事を考慮してつじつまを合わせてほしい。接触まで17秒」 「さっき病室にいた朝比奈さんや古泉もか?」 「そう。本当の記憶を持っていると彼らとの人間関係に何らかの障害が発生する恐れがある」 確かに。アソコが潰れた、なんて知っていてほしくはないからな。変に気を使われるのはいたたまれない。 「接触まで09秒。この場に私がいるとさらなる問題を起こしかねない。緊急離脱する」 緊急離脱?どうやってだ?廊下には既にハルヒがいるんだろ?どこから脱出すんだ? ……窓がいつの間にか全開になってる。そこからか。 長門は窓枠に手をかけ、最後に俺に言った。 「……続きは、またの機会に」 長門の姿は消えた。外からトサッと小さい音が聞こえた。 無事に着地できただろうか。窓から見える景色だけではこの病室が何階なのか、俺には目測できん。まぁ大丈夫だよな。 俺は長門のカウントダウンを数えられるほど落ち着いてなかったので、ハルヒがいつ来るかはっきりとはわからん。 落ち着こう。短い深呼吸。目を閉じて、口の中で言葉を繰り返す。俺は腸捻転、アソコは潰れてなどいない。俺は腸捻転だ……腸捻転って何だ? ヤバい!そこんとこ突っ込まれたら、俺は何て言えばいいんだ!?畜生!メチャ焦ってるぞ俺!どうにでもなれ! コン、コンッ ……ノックする音が病室に響く。おいでなすった。 「……入っていいぞ」 ハルヒだってのはわかってるから、別にこの口調でいいよな。 ドアが随分ゆっくりと開く。変に緊張するからさっさとしろよ、ハルヒ。 思った通り、いや、長門が言った通りか。そこには今まで見たことのない、重苦しい表情をした涼宮ハルヒが立っていた。 ハルヒは後ろ手でドアを閉めた。それと同時に顔を下に向け、垂れた前髪で表情が隠れてしまった。 だが、俺には表情が見えなくてもハルヒが何を考えてるか、よくわかる。 ハルヒはひどく落ち込んでいた。 さて、それは何故か? 俺をこんな目に遭わせたのはハルヒであって、しかも俺は手術を受けるハメになった。金も結構かかっていることだろう。その請求はどこに向かう? 生憎うちは金持ちじゃない。当然ハルヒ側が払うことになるだろうな。それはハルヒが親に迷惑をかけることになる。ハルヒはそれで落ち込んでいるのかもしれない。 ……我ながら、なんて下品でひねくれた解釈だろう。いや、実際俺はそんな風には思ってない。俺が言いたいのは、ハルヒの落ち込みはそんなチャチな利益を含んだもんじゃないってことだ。 もっと、深いところからこみあげる、後悔と自責の念。 ハイなハルヒもローなハルヒも間近で見てきた俺が言うんだ。間違っちゃいない。多分な。 ハルヒは自分から訪ねてきたくせに、長い間黙り込んでいた。 俺には、その沈黙が嫌ではなかった。別に落ち込むハルヒを見て悦に入ってるわけではない。そもそもハルヒが黙ってるなんて、天変地異が起こる前触れと言っても過言ではなく、そうなる度に俺は慌てふためいたわけだが。 何ていうか、その沈黙には俺に対する気遣いが感じとれた。出稚扱いの俺に対する、だ。 だがこのままでは話が進まない。俺はハルヒに問いかけた。 「何だ?話があるから来たんだろ?黙ってないで言ってみろ」 「……あ、あの……その、本当に、ごめんなさい!」 ハルヒは深々と頭を下げて言った。 そう来ると思ってたが、こんなに深いお辞儀をされるとは思わなかった。 「もう良いよ。俺の不注意ってのもあったんだしさ。頭上げろよ。お前らしくない」 ちょっと前までハルヒにキレていた俺だが、長門に治してもらったのと長門の告白で怒りなんかどっか遠くに飛んでいっちまった。 「そう言ってくれるのは嬉しいんだけど……駄目なのよ!それじゃあ!」 ハルヒはほんの少し頭を上げて叫んだ。まだ表情はわからない。 「だって……あたしがあんなことしなけりゃアンタが手術するようなことにはならなかったのよ!前からキョンはあたしに注意してたじゃない!?『壊れるからドアを蹴るな』って…!それなのにあたしは止めなかった!結局アンタをこんな目に遭わせて!最低の馬鹿よあたしは!」 一気に巻くし立てたハルヒはまた黙り込んだ。呆然とした俺は、一瞬だけ、垂れて揺れる前髪の隙間からハルヒの瞳が見えた。一杯の涙を溜めた瞳が。 俺はゆっくりベットから起き上がった。一応「腸捻転」の手術を受けたことになっている。病名に「腸」がつくくらいなんだから開腹手術だろう、その術後の患者が動き回っちゃいけないんだが。まぁ完全回復してるんで見逃してくれ。 俺はハルヒに近付いて、肩に手を置いた。 ハルヒはビクリと反応した。 「ハルヒ。本当に俺に悪いと思ってるなら、俺の顔、俺の目を見て謝れ。ちっとばかし失礼じゃないのか?」 ハルヒはぎこちない動きで頭を上げた。 やはり泣いていた。両目を真っ赤にして、涙を溜めていた。 俺は満面の笑みでハルヒを迎え入れた。 「なんでよ…なんでそんな顔するのよ……」 「む、なんだ。それは俺の顔の出来が悪いって意味か?」 俺は笑い声で答える。 「なんなのよ…あたしのせい、なのに……」 「しつこいぞ。俺の忠告を聞かなかったお前も、お前の前にアホ面で立ってた俺もおあいこだろ。もう済んだことだ」 「うぅ……キョン、ごめんなさい……」 「心配かけて悪かったな、ハルヒ」 ハルヒは俺の服を掴んで顔を俺の胸に埋めて泣きじゃくった。長い間そうしてた。 全く、長門といいハルヒといい、今日に限って涙腺緩みすぎだぜ。そういや俺もちょっと泣いたっけ。 落ち着いたハルヒは、ベットに俺と並んで座り涙を拭いた。 「なんからしくないとこ見せちゃったわね。でもまぁ、とにかくゴメンね?」 「じゃあさ、謝るついでに一つ教えてくれないか?」 「なによ?あたしに答えられること?」 そうだ。ずっと引っ掛かってたことがあるんだ。あの時のハルヒの様子についてだ。 「あの時、お前が俺を蹴り飛ばす前にさ、何してたんだ?」 「何って……何のこと?」 「いや、お前さ、ドアの前で目閉じて深呼吸してただろ?あれだよ」 ハルヒは顔を赤らめてうつ向いた。 「笑わないで…聞いてくれる?」 「あぁ、誓う。絶対笑わない」 「えっとね、中学の話は前にしたよね。すっごく退屈だったって話」 俺は相槌を打ちながら「聞いた」と言う。 「それでさ、高校に入ってからSOS団を作ったじゃない。それからが全然退屈じゃないのよ」 「いや、結構退屈だって言いまくってた気がするが」 「それは…あたし自身の本当の気持ちがわかってなかったんだと思う。有希と、みくるちゃんと、古泉君、それに…キョンに会って、あたし変われた。あたしを理解してくれる仲間に会えたんだって。そう思えるようになってた」 ハルヒの独白は長い。いつか聞いた、野球場で何たらっつう話も長かったし。まだハルヒの話は続く。 「皆で旅行したり、パトロールしたりグダグタしたりしてて、思ったのよ。まるで夢の中にいるように楽しいな、って」 それは俺も同感だ。結構楽しいぜ。楽し過ぎて俺の財布は悲鳴を上げっぱなしだ。 「でもさ。時々不安になるのよ。もしかして本当に夢なんじゃないか、幻を見てるんじゃないか、って」 ……古泉説によると、そうなるんだよな。 この世界はハルヒが見ている夢の舞台、そんな内容だったはずだ。外れている事を願うばかりだね。夢なんてのは見たり見なかったりするものだが、どちらにせよいつか目が覚めてしまうのは当然なんだ。 「だから……部室のドアを開けたら、SOS団が全部消えてなくなっちゃってるんじゃないか、って思っちゃうの。そう思うとドアを開けるのが怖くなっちゃって……」 俺は何も言わずハルヒの話に耳を傾ける。ハルヒの焦点は遥か遠い何処かを結んでいた。 「変なこと言ってるって思うでしょ?あたしもそう思う。何でだろ。宇宙人も未来人も超能力者も、まだどれにも会ってないっていうのにね。団長のあたしがこんなんじゃ、示しがつかないわよ、全く」 ハルヒは勢い良くベッドに背中を預けた。スプリングの強い振動が俺に伝わってくる。俺が本当に手術受けた患者だったらどうする。傷に響くだろうが。戒めとしてちょっとからかってやろう。 俺は背中を丸め、両手で腹を押さえた状態で演技モードに入る。 「うっ…傷が…いてぇ……」 俺演技下手だな。人生をどう間違っても役者なんか目指さない。映画の続編はやっぱり雑用にしてくれ。 しかしハルヒは血相を変え、俺ににじり寄った。 「えっ…ちょ、キョン!?大丈夫!?まさか…あたしがベッド揺らしたせい!?ごめんなさい…今誰か呼んでくるから!!」 ドアに向かって走り出そうとしたハルヒの腕を掴み、俺は舌を出した。 「ウ・ソ、だよ。こんなに簡単に引っ掛かるとはな」 ハルヒは唖然とし、みるみるうちに顔を真っ赤にして怒った。 「もぉ!ビックリさせないでよ!今の悪フザケであたしの寿命が縮んだらどう責任とってくれんのよ!」 「どう取ればいいんだ?提示してくれりゃ検討してやっても良いぜ」 「そうねぇ……何がいいかしら?」 おいおいマジに考えるなよ。ハルヒの考える事は解りやすいようで解りにくいからな。 ハルヒは顔を真っ赤にしたまま、そっぽ向いて言った。 「……辞めないでよね!」 「何を?」 「SOS団を!辞めるな!って言ってんの!」 検討するまでもない。辞める気なんてさらさらないぞ。幕を下ろすには中途半端だし、何よりも俺はSOS団に居たいんだ。 「辞めるわけねーだろ。全く、何考えてんだよ」 「だって……今までキョンに迷惑かけてたしさ、今回は流石に嫌われたって思ったから……」 ホント、こいつは要らん心配ばかりしやがる。今まで散々、常識無視の猪突猛進だったくせによ。お前らしくねぇよ。 「確かに。俺は今までお前に散々振り回された。我儘にも付き合わされた。普通だったら『もうウンザリだ!辞めてやる!』ってなるだろうな」 「やっぱり……そう思ってたんだ…そうよね……普通はそうよ…」 「俺は普通じゃないようだ」 「え……?」 ハルヒは豆鉄砲を食らったハトのような顔で振り向いた。いつもならアヒルなんだがな。 「なーんだかんだ言って、俺もう慣れちまった。お前といるとさ、いつどんな面倒事持ち込むのか期待しちまうんだ。どうせ俺が一番苦労するってのはわかっててもな」 ハルヒは目をパチクリさせて俺の顔を見つめている。俺の発言がそんなに意外だったか?普段のハルヒなら『当然よ!あたしは団長なのよ!?団員は黙ってついて行くのが務めってもんよ!』とか言いそうなのに。 「それにだ、SOS団はお前にとってだけじゃなく、俺にとっても最高に楽しいって思える場所なんだ。でもそれは決して夢なんかじゃない。俺たちが息吸って生きてる現実だ。だから」 俺は一息つき、続く言葉を放つ。 「俺の事もSOS団の事も心配無用。だからハルヒは、ハルヒらしく在っていてくれ」 ハルヒはまた目を潤わせた、と思ったら制服の袖で勢い良くソレを拭い深呼吸した。 「キョン、これから一番あたしらしくない事をするわよ。こんな機会は滅多にないわ。希少価値よ!超がついちゃうぐらいの、ね!」 いつもの口調に戻ったと思ったら、今度はなんだ?一番ハルヒらしくないって言われても。さっきの泣いてたハルヒ以上に値打ちのある姿なんて想像できん。 まさかえっちい事……じゃないよな。長門の爆弾発言がまだ尾を引いてやがる。あれやこれやと思案を巡らせていた俺は、不意に肩、首の周りに重圧を感じて我に返った。 ハルヒが俺の首に手を回して抱きついていた。ハルヒの頭が俺の頭のすぐ横にある。 ハルヒの体温、鼓動、呼吸が俺に伝わってくる。意外に焦らないものだ。なんだか母親に抱かれた子供が感じるような、安心感が俺を包み込む。 「…キョン…今までありがとう……そして…これからも、ずっと……」 耳元で囁いたハルヒは俺の肩に手を置き、俺の目の前に顔を向き合わせた。オイオイハルヒさん、一体何をする気だい? 「目、瞑って……」 俺は言う通りに目を閉じ、息を飲んだ。これってアレだよな?アレじゃなかったらなんだ?アレってなんだ?アレってもしかして、キスですか!? 長門に続きハルヒもかよ!悩み事打ち明けた後にキスしたくなっちゃう病気でも流行ってんのか!?いや、長門にキスを持ちかけたのは俺だ。ってことは俺も感染してるのか!?どうすんの俺!? 駄目だ目開けられねぇ!くそ!覚悟を決めろ!俺! 覚悟を決めるため、また震えを堪えるため、俺は今座っているベッドのシーツを力一杯握り締めた。さぁさぁ、ドンと来ぉい! ガチャリ。 思いがけない音が響いた瞬間、急に肩にかかった重圧が消えた。『ガチャリ』って、まさか…… 「ゆゆゆゆ有希ぃぃぃ!?な、何で急に入ってくんのよ!?びびビックリするじゃないのぉ!」 開け放たれたドアの前に立っていたのは、先程この部屋の窓から華麗、かどうかわからんジャンプで脱出した長門有希だった。 「……そろそろ麻酔の効果が切れる時刻なので様子を見に来た……何をしてるの?」 「なな何でもないわよ!?キョンが起きて、じょ状況が解ってないようだったから、ああたしがせ、説明してたのよ!そ、そうよねキョン!?」 「あ?ああ、そう!ほら俺、き気絶してただろ!?全然状況が解ってなくてさぁ!ちょうどハルヒが来たから訊いてたんだよ!」 「…………………そう」 ヤヴァイよ…今だかつてない負のオーラが、長門の周囲を覆っている……!やっぱり、怒ってるの…か? 「あのぉ、長門さんどうしたんですかぁ?……って、あれぇ、涼宮さん来てたんですかぁ?」 「おや、団員の元にイの一番に駆け付けるとはさすが涼宮さん。一団のリーダーとしてとても立派な事だと思います」 古泉と朝比奈さんが廊下からヒョイと顔を出した。二人は最初に病室にいたはずだが……長門の疑似記憶だな。 「み、皆喉渇いてるんじゃない!?あたし売店でジジュース買ってくるから!それまでご、ごゆっくりぃぃ!!」 完全にバグったハルヒは全速力で病室から逃げ出した。ずるいぞ!俺も逃げたいのに! 「涼宮さぁん、廊下は走っちゃ駄目ですよぉ~」 朝比奈さんはハルヒの背中に小学校勤務の教師的な注意を投げ掛けたが、ハルヒは一目散に走って逃げた。 「どうしたんでしょうね?凄く慌ててましたよ?」 「本人の発言の通り、涼宮ハルヒは喉が渇いているため水分補給をしに行ったと思われる」 古泉の疑問に即座に答えた長門は、凄まじく恐ろしい目で俺を睨んでる。他の二人は気付いてないようだが俺にはわかる……!長門は滅茶苦茶怒ってる……! ちなみにこの日、ハルヒは結局戻って来なかった。あの勢いじゃ日本列島一周しに行ってもおかしくはない。耳から蒸気を噴き出しながら爆走する暴走特急ハルヒ。コックに扮した秘密捜査官にさえ停めることは不可能。取りあえず放っておこう。 その後、古泉は俺の症状、手術に至るまでの経過、注意事項etcetcを延々と語っていたが、俺の耳には全く入らなかった。 原因は長門だ。ずっとあの調子で俺を睨んでいる。俺の緊張状態は金縛りを起こす一歩手前なわけで、演説大好きエスパー野郎の声を俺の鼓膜が通過させる余裕など微塵もない。 唯一鼓膜が通過を許可した古泉の説明は『退院まで一週間半かかる』との事。 つまり予定通りにいけば、一学期の終業式までには出席でき、すぐに夏休みが始まるというわけだ。 だからそれまでゆっくりと入院生活を満喫、なんてそうは問屋が卸さない。早く倒産すれば良いものを、とんでもないブツを2つも売りつけやがった。 まず1つ。怒り狂う長門をどう鎮めるか。 そして2つ。ハルヒにどのツラ下げて会えば良いのか。 せっかく9割以上の学生が喜んで待つだろう夏休みが間近に迫っているというのに、俺はこの2つの難題に取り掛からなくてはならない。 こんな鬱な夏休み前は生まれて初めてだ。それどころか夏休み後半、いや二学期まで引きずりそうな予感さえするのだ。 俺に試練を与えたもうた何処かにいる神へ、ありったけの憎しみを込めて俺は呟く。 『やれやれ』 涼宮ハルヒの蹴撃・終劇。 ~エピローグ~ この後、俺はどうなったかを語ろう。言っとくがちゃんと生きてるぞ。容態が急変した、なんてこたない。俺はこれ以上ないくらい健康だ。精神面を除いてだが。 まずは苦悩の入院生活についてだ。 長門は毎日、学校をサボって朝から晩まで俺の病室で本を読んでいた。タイトルが凄まじく攻撃的な物ばかりだったのは俺への当て付けだろうか。ちなみに『あの時の続き』はしていない。何だか生殺しな気分。 ハルヒも何故か毎日来た。日本列島一周は諦めたか、一晩で終らせたかは知らんが。ハルヒも明らかにサボりだ。病室で携帯いじりやボードゲームをしている。つまり病院で団活してるわけだ。 だが、長門が席を外してる間にハルヒは俺の入院着の襟を捻り上げ、 「あの時の事は忘れなさい!誰かに言ったりしたら、本っ当に死刑だかんね!」 と、脅された。当然俺は頷き、なかった事にしました。権力に屈した感がするが、死にたくないからな。 朝比奈さんと古泉は放課後、病室に毎日来てる。見舞いって名目だが、やっぱりする事は団活と同じ。 あんまし気遣ってないだろ、俺のこと。 担任岡部も見舞いに来て果物詰め合わせをくれたが、全てハルヒと長門の胃袋に収容された。 谷口&国木田も来たが病室がSOS団支部局になってる事に気付き、早々に帰っていった。 名誉顧問の鶴屋さんもしょっちゅう来てくれた。俺の病室が個室で本当に良かったよ。このひと声でか過ぎ。大部屋だったら即刻退去を命じられていただろう。楽しかったからいいけどさ。 で、退院後。部室で退院祝い鍋パーティが行われた。鍋の具は主にモツ。ハルヒ曰く『あんな蹴りで腸壊すなんて弱すぎよ!モツ食って鍛えなさい!』だそうだ。さらに大量のヨーグルトを買ってきやがった。モツ+ヨーグルト。即座に腹下しそうな食い合わせだなオイ。 もし全員が『本当の記憶』のままだったら鍋の具は一体何になっていたのだろうか。考えたくない。吐気がするね。 「キョン~!さっさと食っちゃいなさいよ!これから夏休み計画の会議するんだから!」 ちっとは優しくなるかと思ったら、我らが団長様はエンジン全開、フライングしまくりなテンションを保ってる。 もう、なんつうか…… 「やれやれ」だな、やっぱり。
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涼宮ハルヒのSS 厳選名作集 長編 涼宮ハルヒの軌跡 超能力者。 涼宮ハルヒによって、閉鎖空間と神人を倒すための力を与えられた存在。機関と呼ばれるハルヒの情報爆発以降に発足した組織に属し、 その意向、つまり世界の安定に協力している。 三つほど前の世界では、その目的は変わらず「世界の安定」だったが、情報統合思念体が排除行動に出たため、 手段を「ハルヒの安定」から「ハルヒとその影響下にある人間の排除」へと変化させ、ついにはそのために核爆弾を炸裂させた。 でリセット。 未来人。 涼宮ハルヒによって、時間遡行能力を与えられた存在。組織名やそれが一体いつの時代のものなのかは不明。 目的は自分たちの未来への道筋を作り続ける涼宮ハルヒの保全。そのためには別の未来を生み出しかねない存在は かたっぱしから抹消している。 それが原因で二つほど前の世界では、ハルヒの観察を命じられた朝比奈みくるという愛らしいエージェントがその役割を 押しつけられ、結果目も当てられない惨劇が次々と演じられていった。 んで、その過程でハルヒの能力自覚がばれて情報統合思念体の排除行動が始まったためリセット。 宇宙人。 唯一、ハルヒが関わらない形で存在している。その名称は情報統合思念体。基本的な目的を自律進化の可能性を秘める 涼宮ハルヒの観測にする一方、能力を自覚してしまった場合は地球ごと抹消することにしているようだ。 その監視には対有機生命体コンタクト用インターフェースと呼ばれる人造人間を送り込み、近い距離からのハルヒの観測を行っている。 前回の世界では、そのインターフェースの一人、長門有希と俺が文芸部活動に没頭した結果、彼女が一人の少女になろうと その任務を放棄し人間になる決断の末、情報統合思念体をハルヒの力を使って抹殺しようと試みたため、 長門は初期化されてしまった。同時に長門は俺との文芸活動の過程で、ハルヒの力の自覚を知っていながら隠していたため、 初期化の際にその情報が情報統合思念体にも渡り、排除行動が開始された。 それでリセット。 これが今まで俺とハルヒが歩いてきた軌跡だ。 はっきり言って全部バッドエンド。まあ、ハッピーエンドならリセットなんて起きず、平穏無事な世界が続き 今頃俺は自分の世界に帰ってSOS団の活動に没頭しているだろうが。 しかし、その過程で得られたものは無駄なものは無かった。情報統合思念体と超能力者と未来人の微妙な関係が 世界の安定に大きく貢献している事実が得られたんだからな。ただ、おまけとして、俺の世界が絶妙なバランスで 成り立っているのかという事実も突きつけられた。そこにあって当然だと思っていたから。まさか、同じにならずとも 安定させるだけでこれだけの苦労をさせられるとは、初めてこの世界のハルヒに引っ張り込まれたときに考えもしなかった。 さて。 材料は全てそろった。まだ唯一にして最大の懸案事項は残っているが、この際仕方がない。次にやることは一つ。 宇宙人・未来人・超能力者が存在している世界を作ることだ。 ◇◇◇◇ 俺はもう4回目になる北高入学式の早朝ハイキングコースを歩いていた。俺の世界の正式・正統な入学式を含めれば もう五回目か。一体俺は何度入学すれば気が済むのだと愚痴りたくなりつつも、それ自体は俺も同意しているんだから グダグダ抜かすなと心の中の天使だか悪魔だかの声が聞こえてくる。 そして、平穏無事に終わった入学式後、教室での自己紹介タイムまで到達した。 俺は背後の席にハルヒがむすーっとした表情で座っているのを確認しつつ、自分の席に座った。 と、ここでハルヒがごんと椅子の底を軽く蹴ってくる。全くなんだ。いきなり事前の打ち合わせを無視した行動を してほしくないんだが。 「……何か?」 俺がゆっくりと振り返ると、やっぱり不機嫌顔で腕を組んだハルヒがこっちを睨みつけてきている。 その視線を見ると大体は言いたいことはわかったが、はっきり言ってただの意味のない文句だけみたいだから 相手しないようにしよう。だからこそ、ハルヒも口を開こうとしないんだろうし。 この宇宙人・未来人・超能力者のいる世界を作ったときに、ハルヒとこういう取り決めで行動することにしていた。 まずハルヒは中学時代――自分の力を自覚した直後からこの世界には行ってもらい、俺は北高入学式からにする。 これに関しては校庭落書きの一件を意識した上での俺の要望だ。同じになるとは限らないが、ひょっとしたら 眠りこけた朝比奈さん(小)を連れた俺が現れるかも知れないからな。念には念をってことだ。 ただし、その間に起こること――例えば、学校の校庭に落書きするハルヒとか、実はその時重なるように 俺は三人存在(中学生の俺・七夕のときの俺・冬のあの日の俺)していたりとか、俺の世界で起きたことについては ハルヒにまったく教えていない。前回の世界で思い知らされたように俺の世界とまったく同じにするのは不可能だし、 予定を決めてハルヒに動いてもらうと返って不自然さが増すだけだからな。中学時代どうするかはハルヒに一任することにした。 ちなみにふと俺の方からその時に聞いてみた今更な疑問だったが、前回までのように中学時代をすっ飛ばしたら その間のハルヒはどういう立場になっているんだ?と聞いてみると、 『ダミーみたいなものを置いておくのよ。後はこっちから操作して、時間軸を早回しして問題が起きないか確認。 で予定時間になったらあたし自身と入れ替えるわけ』 外部から操れる人形がおけるなら、今までだってわざわざ作った世界に入らずにダミーとやらをこの時間平面の狭間から 操っているだけで良かったんじゃないかと突っ込んでみたところ、 『外から見ているだけだと臨機応変に対応できないし、なんていうか自分の目で見ているのとは大きく異なるわ。 それにあんまり不自然に操っていると情報統合思念体に勘づかれる可能性もあるから。だから、その手を使うのは 大した問題が起きないってわかってときだけよ。幸い中学時代は平穏だってわかっているからこの手が使えるんだけどね』 頭半分で理解しておくにとどめた。難しいレベルに突っ込むと頭がパンクするからな。 話を戻して。 俺が高校からだったのは、ハルヒ曰く脳天気なあんたを三年間も日常生活を歩ませたら何をしでかすかわからんとか 言うからである。まあ、三年も非現実的な世界から遠ざかっていたら、入学後の驚異の世界への突入に拒否反応を 示しかねないから正しい判断だろう。どうせ何の宇宙人とかの属性を持っていない俺なら、ダミーとやらで十分だからな。 で、俺の入学後も俺とハルヒは目立つように接触しない。これも取り決めの一つだ。なぜかというと前回の世界で 長門が俺に注目したのは入学当初から、変人ハルヒが俺とだけ気兼ねなく接触していたからと言っていたである。 確かに何の接点もなかった二人がぺらぺらとしゃべっていたらおかしいと言える。そんなわけで、GWが終わるくらいまで 二人とも大人しくしておこうと決めている。 ……多分、その大人しくしておくというのの不満が積もっているんだろう。さっきの蹴りはそれを意味しているんだと推測する。 ほどなくして、教室に担任の岡部が入ってきた。快活な口調で自己紹介などを生徒たちにさせ始める。 もちろん俺はこの時に朝倉がいることを見逃していない。前回の世界でずたぼろになりながらハルヒが消滅させたのに、 やっぱり復活しているんだな。前の世界の存在をリセットして情報統合思念体にもそんな世界はなかったと 誤認させているんだから仕方がないんだが。 やがて俺の順番になり、適当な挨拶をすませた。 そして、その後ろにいるハルヒへと順番が回る。 その時のハルヒの自己紹介はとても懐かしい気分にさせられるものだった。 「東中出身、涼宮ハルヒ。ただの人間には興味ありません。この中に宇宙人・未来人・超能力者がいたら あたしのところに来なさい。以上」 ――すでにいる異世界人(俺)は抜けていたが。 ◇◇◇◇ 入学式から数日後の放課後、俺とハルヒは人目を避けて非常階段の踊り場で落ち合っていた。一度だけは情報収集+意識あわせで 話し合うというのも事前取り決めの一つだった。 「で、自己紹介はあんな感じで良かったわけ?」 「ああ、あれでお前が変なものに興味津々ってのがアピールできただろうから」 しかめっ面のままのハルヒに、俺はそう答える。 さてこの状態で長くいるのはまずいからさっさと意識合わせするか。 「で、この三年間変わったことはあったか?」 「真っ先に思いつくのは、中一のときにあんたとみくるちゃんが来たわよ。あたしの校庭落書きに付き合ってくれたわ」 「……お前、アレやったのか」 俺は呆れ顔になる。教えてもいないのに、団長ハルヒと同じことをやるとはやっぱり基本的人格は同じってことか。 ハルヒは肩をすくめつつ、 「何よ、思い当たる節でもあるわけ? まあそれはいいけど、ちょっと暇だったからなんとなくね」 そうなるとこのまま行けば、七夕のときのTPDD~長門の部屋で三年間朝比奈さんと添い寝があるってことか。 ん、ならひょっとして…… 「一応そのときの状況を確認しておきたいんだが、俺と朝比奈さんは手伝っただけなのか?」 「みくるちゃんはすやすや眠っていたわよ。あんたなんかやったんじゃないでしょうね?」 何もしてねえよ。まあ、朝比奈さん(大)からはチュウぐらいならOKと言われていたが、自制したぞ。 いやそんなことはどうでもいい。 「ってことは、手伝ったのは俺だけか。その後に何か言っていなかったか? 世界を大いに盛り上げるジョン・スミスをよろしくとか」 俺の指摘にハルヒは記憶の糸を穿り返すようにあごに手を当てて思案顔になるが、 「そんなことは言っていなかったわよ。ただ手伝って、完成したらあたしはとっとと家に帰っちゃったし。 大体、ジョン・スミスって何よ。あんたにそんな風に名乗られた覚えはないわ」 ハルヒの返答に俺ははっと気がつかされる。そりゃこのハルヒと俺はとっくに顔見知りなわけで、さらに朝比奈さん(小)が 眠っている間だったことも考えると、わざわざ偽名をハルヒに名乗る必要はない。俺の世界では一種の切り札みたいな名前だが、 この世界ではハルヒが力を自覚している時点でまったく意味を成さないのだ。そういうわけで、その名はハルヒに対して 今後も使われることはないだろう。この時点でもう俺の世界とは大きく異なっているな。しかし、二度目の接触、 よろしく!に変わるものがまったくなかったのに、俺は疑問を覚える。どうなっているんだ? あの冬の日の事件は 今後も起きないことになっているのか、それともあったがその必要がないから何もしなかっただけなのか。 ううむ、この時点では判断のしようがない。 ただ冬の事件がなかったことについてはもう一つ確信を得るような状況があった。少し前に部活動について調査したところ 長門は文芸部には入っていなさそうだからな。そうなると、俺は三年前長門に文芸部室で待っていてくれと 言わなかったことになる。 「…………」 とりあえず、そのことについては保留だ。この世界で唯一の問題は長門の暴走を情報統合思念体がどう対応するのかだからな。 成功してハッピーエンドになるかどうかはそれ次第な以上、時期が来るのを待つしかない。長門が暴走せずに穏便に 一人の少女になってくれるのが一番ありがたいから、そうなるように努力すべきだろうが。 「他にはなんかなかったのか?」 「何にもなかったわよ。あまりになさ過ぎてずっとイライラしっぱなしだったわ。ただ待っているだけっていうのはつらいものよ。 おかげでかなり閉鎖空間で大暴れしちゃったから、古泉くんも結構苦労したでしょうね」 ハルヒのあっけらかんとした発言に、俺はお気の毒にと古泉へと手を合わせておいてやる。 まとめると、変わったことは校庭落書きだけか。そうなると、特別な対応は発生せず予定通りに動けばいい。 GW終了後にSOS団――名称は何でもいいから、宇宙人・未来人・超能力者が集う団体の設立ってことになる。 おっとそういえば未来人と超能力者はきちんといるんだろうな? 「昼休みにみくるちゃんは確認したし、三年間機関らしい連中があたしの周囲を見張っていたから問題ないわ。 同時に前回の世界みたいな小規模組織の乱立も起きていないからね。機関か未来人のどっちかが大半のものを つぶしてくれたみたい。おかげでこっちは大助かりだわ」 ハルヒの言葉に、俺はほっと安堵で胸をなでおろす。これで役者は全員そろったって訳だ。あとは俺たち次第になる。 「大体事態は把握できた。じゃあ、後はGWまで大人しくしていようぜ。そっから行動開始だ」 「ちょっと待って」 俺はとっとと解散しようとしたが、すんでのところでハルヒに足を止められる。見れば、少し迷いながらもようやく決意したと 言った表情のハルヒの視線がこちらに向けられていた。 「あんたの世界であった冬の一件について教えて。それだけはやっぱり事前に知っておきたいから」 その要求に俺は顔を困惑で顰める。この世界に入る前、俺の方から同様にハルヒへ教えておこうと思ったんだが、 それを拒否したのはハルヒだぞ。どういう心変わりだ? ハルヒは肩をすくめつつ、 「あの時はまだ有希の消滅が受け入れられていなかったから正直そんな話を聞きたくなかったのよ。でも、三年間じっと考える 余裕ができてやっぱり聞いておこうと思い直したわ。条件が同じなら、この世界でも同じことが起きるかもしれないしね」 俺はやれやれと思いつつも冬のあの日のことについて教えてやることにする。 朝起きてみたらまったく異なる世界に改変されていたこと。 そこではハルヒと古泉は別の学校にいて、長門はごくごく普通な文芸少女になっていたこと。 結局長門の緊急脱出プログラムで脱出できたこと。 そして、その世界を改変した犯人は長門だったということ。 全部話すといつまでたっても終わらないのでかいつまんで説明してやった。 ハルヒはその話を聞いて、少し憂鬱そうに顔をうつむかせ、 「そっか……有希がそんなことをしたんだ」 「……当時俺は長門に何でもかんでも頼りっぱなしだったからな。そんな状態に追い込んだ責任は俺にもあると思っている」 だが、現在における最大の問題はどうして情報統合思念体がそれを許したのかがわからない。前回の世界の長門と 何の差があるというのだろう。奴らにとってはインターフェースが暴走しハルヒの力を消して自らを抹殺したという点は まったく変わらないはずなのだ。ひょっとしたら、何だかんだで長門は緊急脱出プログラムを用意していたし、 時間という考え方が俺たちとは全く異なることから考えて、結局元通りになるとわかっていたから…… いや――さっきも言ったがやめておこう。今考えてもどうにもならん。俺にできるのは長門に負荷をかけることなく、 普通の少女になってもらう努力をするだけだ。 この話を最後に俺たちは解散した。ハルヒはあと一ヶ月か……とまたも憂鬱そうな表情を浮かべていた。 一方で俺はどうでもいいことを思っていた。 せっかくだから中学時代にハルヒに髪を伸ばしてもらって置けばよかったと。それならまた曜日で変わる髪形が 見れたかもしれなかったのに。 ◇◇◇◇ 入学式から一ヶ月特に変わったこともなく過ぎてGW明けとなった。 さて、休みがてらそこそこにしゃべれるぐらいの関係になったことをアピールしていた俺とハルヒは、 ここから本格的な行動開始となるわけだが、授業終了後ハルヒは一目散にさてどうしたものかと考える俺のネクタイを 引っ張って走り出す。動くならせめて前準備をしてからだな…… 「そんな悠長なことを言ってられないわ! この日のために三年も待ったのよ!」 そんなことを言いながら、まずは6組へ突入。帰ろうとしていた長門をとっ捕まえて自分についてこいと一方的に告げる。 ただ長門自身も拒絶することはなく、 「わかった」 そう了承し、今度は二年の教室へ全力疾走するハルヒの後ろをついてきた。やれやれ、なんと言う猛進振りだ。 そして、二年二組に入ると部活動へ行こうとしていた朝比奈さんの腕をつかみ、 「はーい、確保!」 「ふえ? ――うひゃあああああ!」 ハルヒはもう朝比奈さんの意思も聞かずに抱きかかえて走り出した。おい、今度はどこに行くつもりだ。 まだ古泉は転校してきていないぞ。長門と朝比奈さんをそばに置いたがために、古泉は転校を余儀なくされたわけだけどな。 「あ、ちょっとみくるをどうするつもりだいっ!?」 その様子を見ていた鶴屋さんは、あわててとめにかかるが、持ち前の機敏さでハルヒはするりとよけて、 「キョンっ! あたしたちは文芸部室に行くから、鶴屋さんに事情を説明しておいて! あとよろしく!」 そう言って朝比奈さんを拉致して立ち去って行っちまった。ちょこちょことその後ろを長門がついていっている。 やれやれ、本当に鉄砲玉みたいな野郎だ。三年間溜まりに溜まった我慢を今爆裂させているんだろう。 さてこのままだと鶴屋さんに通報されかねないからフォローしておかないとな。 「お騒がせしてすいません。とりあえず、朝比奈さんに危害は――ええとそこまでひどいことはしませんのでご安心ください。 ただちょっとお友達にと」 「ふーん、キミとさっきの女の子は誰なのさっ?」 珍しく疑惑の視線を見せる鶴屋さん。まあ朝比奈さんの保護者みたいな存在だから、心配なのだろう。 「一年のものです。さっき朝比奈さんを強奪して言ったのが涼宮ハルヒ。うちのクラスの名物暴走女ですよ。 朝比奈さんを見かけてどうやら一目ぼれしてしまったみたいで。もう一人は長門有希。となりのクラスの人であって5分も たっていませんが」 思わず自分の説明で苦笑いしてしまう俺。無茶苦茶な状況すぎるだろ。 案の定、鶴屋さんも訳がわからないという疑問符を浮かべていたが、やがてぽんと手をたたき、 「ああっ、あれが涼宮ハルヒって人なんだねっ! ちょっと忘れていたけど思い出したよっ! そっか、みくるが気に入ったかっ!」 のわはっはっはと大声で笑い出し、突然自己完結してしまった鶴屋さん。何でそんなにあっさり…… ってそりゃそうか。鶴屋さんは遠巻きながら機関の関係者であり、ハルヒのことについても何らかの情報がわかっているはず。 俺の世界ではそう言ったことを断言はしなかったが、匂わせる発言はあったからな。ハルヒが特別な存在というぐらいは 知っていてもおかしくはないだろう。 ここで鶴屋さんは俺の肩をパンパンとたたき、 「よっし、わかったよ。深い事情は聞かないからみくるをキミに任せるっ! でも、あの子は弱い子だからあまりいじめちゃ だめにょろよっ」 「ええ、それはもちろん。ハルヒの魔の手からできるだけ守りますんで」 鶴屋さんが物分りのいい人で本当に助かった。これでこの場は落ち着いたはずだな。 俺はがんばれと手を振る鶴屋さんに一礼すると、文芸部室へと向かった。 「……遅かったか」 文芸部室に入った後の俺の第一声。見れば、相当もみくちゃにされたのだろう。床にひざを抱えて しくしくとすすり泣いて座り込んでしまっている朝比奈さんの姿が。全くハルヒの奴は加減というものを知らんからな。 一方のハルヒはかばんから何かを取り出そうとごそごそとやっている。まさかバニーガールではあるまいな? さすがに初日にアレをやると、朝比奈さんがパニックを起こすから全力で止めさせてもらうぞ。 拉致されたもう一人の長門は、文芸部に置かれている本棚をじーっと見つめていた。どうやら何か感じるものがあるらしい。 せっかくだから、俺は前の世界で最初に読ませてやったあのSF小説を取り出すと、 「読んでみるか? 結構面白いと思うぞ」 「…………」 長門はめがね越しの視線でその表紙を見つめていたが、やがてそれを受け取るとぺらぺらとページをめくって 内容を読み始めた。よし、これで読書狂長門できあがりっと。 ここでハルヒはようやくかばんから取り出したものを俺たちに配り始める。内容は文芸部への入部届けだ。 ハルヒが勝手に書いたのか、後は自分の名前をサインすれば言いだけの状態になっていた。 「はーい注目。これからここにいる全員はいったん文芸部に入部してもらうわ」 「おいちょっと待て。文芸部に入ってどうするんだよ?」 俺の突っ込みにハルヒはちっちっちと指を振って、 「文芸部は仮の姿。一応部室を占拠しておくにはそれなりの理由が要るからね」 偽装入部かよ。なんてことを考えやがるんだ。長門が文芸部入りしていない以上、ここを使うにはこの手しかないのは事実だろうけど。 「ほらほらとっとと入部届けにサインしなさいよ。あとみくるちゃんはいつまで泣いてんのよ。そんなのじゃ、 渡る世間は鬼ばかりの世界は生きていけないわよ」 鬼はお前だろうが。まあいい、これ以上続けても仕方ないからとっととサインしてしまおう。 どういうわけだか――いや予想通りかもしれないが、長門はもうサインを終えて、SF小説の続きを読んでいるからな。 ここでようやく朝比奈さんはローン30年が残っている家が地震で倒壊したのを目撃したサラリーマンのように 肩を落としたまま立ち上がり、 「で、でも、あたし書道部で……」 「じゃあ、そこちゃっちゃとやめちゃって。我が部の活動の邪魔だから」 一応抵抗を試みたのだろうが、ハルヒは全く取り付く島もない。 朝比奈さんはどうしようとおろおろをしばらく続けていたが、やがて長門がサインした入部届けを見て、 「……そっかぁ。わかりました。こっちの部に入部します……」 その声は可哀想になるぐらい悲愴なものであった。しかし、やっぱり長門の存在が気になるようだな。 ふと、朝比奈さんはまたまた困ったという顔を浮かべて、 「でもでも、あたし文芸部って何をするところなのかよく知らなくて」 「さっきもいったでしょ。文芸部は仮の姿だって」 「?」 ハルヒの言っていることの意味がわからないらしい朝比奈さんは、頭の上にはてなマークを浮かべるような 愛らしい疑問を顔に浮かべた。 ここでハルヒは高らかに宣言する。 「我が部の本当の名前――それはSOS団よ!」 世界を大いに盛り上げるための涼宮ハルヒの団。 それを聞いたとたん、朝比奈さんを取り巻く空気が固まった。しかし長門は無視してSF小説に没頭している。 一方で俺は呆れ顔だ。 おいハルヒ。その名前でいいのかよ。事前の打ち合わせで、なにその安直なネーミングセンスはとか言っていただろ。 なんだかんだで実は気に入っているんじゃないのか? 朝比奈さんは何かを聞こうとして顔をいったん上げるものの、すぐにあきらめたような表情に変化してうつむいた。 だんだんハルヒっていう奴の性格がわかってきたんだろうな。長門はどうでもいいと完全に無視だが。 そんなわけで、俺の世界のときと同じように、ここにSOS団がついに誕生したのである。 いやはや、ここにたどり着くまで長かったから少々感慨深いものがあるな。 ただ……ハルヒが力を自覚し、長門・朝比奈さん、そしてもうすぐやってくるであろう古泉の正体を知っている限り、 その活動内容には若干異なるところが出てくるだろうけど。 ふと、俺は長門と朝比奈さんを交互に見渡す。 朝比奈さんは自分の任務に耐えられなくなり自殺を試みた。 長門は俺とハルヒとともに居たいがために、情報統合思念体を抹殺しようとして初期化されてしまった。 こうしていつもどおりの二人を見るとうれしいが、一度見てしまった惨劇と悲しみは早々心から消えるものではない。 俺の中では少々複雑な感情が入り混じっていた。やれやれ、トラウマになっているようだな。 ◇◇◇◇ SOS団結成から数日間、俺はその活動初期の悪事を抑えるべく奮闘していた。まずはコンピ研パソコン強奪。 あれをやると後腐れが残るからな。もっともハルヒはハルヒでも別のハルヒなんだからやらないんじゃないかと 淡い期待をしてみたが、言い出したときにはパソコンショップで強奪対象を精査するという事前準備までして 突撃準備OKの状態だったりしたもんだから、俺は即刻その計画を阻止した。やっぱり根本は同じ奴だよ、全く。 ただこれを阻止すると、のちにコンピ研とのゲーム対決がなくなって、長門がパソコンに興味を抱かなくなる可能性が 頭に引っかかったが、ただパソコンを使わせるのならそんな因縁めいた舞台なんて用意する必要はない。そのうちどうにかするさ。 ちなみにハルヒにはもうすぐ古泉がやってくるから、そっちに言えば用意してくれるさと言い聞かせておいた。 あと、バニーガールでのビラ配りだがこれはハルヒの方からやるとは言い出さなかった。まあ、すでに宇宙人・未来人を 確保し、もうすぐ超能力者までやってくるSOS団がこれ以上この世の不思議を募集する必要なんてない。俺の世界との違いを考えると こうなるのは必然と言えよう。ただし、ハルヒの朝比奈さんに対するコスプレ癖はそのままのようで、 事あるごとにバニーガールやメイドに変身させていた。パソコン強奪を取りやめにしてくれたのと引き換えに これは容認しておいたが。それにこれがないとなんつーかSOS団らしくないというか…… で、ようやく最後の一人古泉の到着だ。 「ヘイお待ち! 本日一年九組に転校してきた即戦力をつれてきたわよ!」 その日の放課後メイド姿の朝比奈さんとオセロに興じていた文芸部室に威勢のよい声とともに飛び込んできたのはハルヒだ。 その手に引きつられてきたのは、あの胡散臭いインチキスマイルを浮かべているあいつだ。 「古泉一樹です……どうもよろしく」 そう言って近づいた俺に握手を求めてきたため、俺もそれに答える。 ……その瞬間、超能力者オンリーの世界の出来事、特に機関の暴走のシーンが脳裏によぎり俺の顔が少しゆがんだのを 自分でもわかってしまった。やっぱりトラウマになりかけているな、やれやれ。 「どうかしましたか?」 「い、いやなんでもない。よろしく」 俺は平静を取り繕って、不思議そうな顔を浮かべている古泉に挨拶を返す。思えば、こいつは一番最初に 構築した世界だったため会うのは相当久しぶりだ。 ハルヒは手でSOS団の部員をそれぞれ指差して言って、 「それが有希。そっちのかわいいのがみくるちゃん。で、今握手したのがキョン。みんな団員よ。で、あなたが4番目の団員。 そして、あたしがその頂点にいる団長涼宮ハルヒ! よろしく!」 「ああなるほど」 古泉は部室内の団員を一通りまるで観察するかのように見回すと、そううなづいた。宇宙人と未来人の存在を確認できたということか。 しかし、異世界人(俺)までいるとはわかるまい。何か出し抜いてやった気分だっぜ。 「入るのはいいんですが、一体何をするクラブなんでしょうか? 申し訳ないんですが、いまいちピンとこないので」 この古泉の問いかけに、ハルヒはにやりと笑みを浮かべると、 「いいわ。教えてあげる」 そう言って大きく息を吸うと、部室どころか旧館全体に響くでかい声で宣言した。 「ここにいる全員友達になって遊んで遊びまくることよ!」 ハルヒの宣言に空気が死んだ。 まあ無理もない。突然、宇宙人・未来人・超能力者をピンポイントに集めたかと思えば、一緒に遊び倒しましょうってんだからな。 そんなハルヒに古泉はスマイルを絶やしていないし、朝比奈さんはおろおろするばかり、長門は話を聞いているのかいないのか ひたすら読書中である。 俺の世界のハルヒは、宇宙人みたいなものを探すことを目的としているが、それはすぐ近くにそんな奴らがいることを 知らないからそう言っているのであって、このハルヒはそれを知っている以上探す必要などない。 とはいっても、SOS団団長――ああ、今両方とも同じになったか。俺の世界のSOS団も不思議なことを探すとか言って おきながら実際にはそれとはあまり関係のないお遊びサークルと化しているからな。活動内容自体に大差はないといえる。 「SOS団の旗揚げよ! いえーい、これからみんなでがんばっていきまっしょー!」 ついに全員そろったことに喜びを爆発させているのか、ハルヒの声はどこまで明るく透き通っていた。 さてと、ここからが本番だな。この先、平穏無事にことが進んでくれることを祈るばかりだ。 ◇◇◇◇ それから数日間は俺の世界と同じようにカミングアウトラッシュとなった。 まず長門が本に仕込んだ栞のメッセージで俺を呼び出し、宇宙人であることを告白。 週末のハルヒ主催の出歩きツアーで朝比奈さんが未来人であることを告白。 その週明け、俺の方から古泉へ接触し超能力者であることを聞かされる。同時に機関とその役割についてもだ。 それと同時に始まったSOS団活動だったが、ハルヒはこれでもかというぐらいに団員たちを引っ張りまわした。 ある時は読書狂の長門に答えるかのように古本屋めぐりで変わったものがないか捜し歩いた。 次に朝比奈さんのコスプレ衣装を選ぶとか言ってデパートで衣装の選び大会。どこからそんなに金をがめてきたのか。 さらに古泉用にとボードゲーム大会を休日の部室で開き、ハルヒ先生による攻略法講座までやった。それでも古泉は弱いままだったが。 ――ただ、俺はこのハルヒに少しだけ違和感を感じ取っていた。それが何なのか言葉には出来なかったが。 ◇◇◇◇ そんな状態が続いたある日、下校時刻になった俺たちはいつもの長い坂を下っていた。ハルヒは朝比奈さんに何かを熱心に語り、 長門はやっぱり読書したまま歩いている。最後尾には俺と古泉が歩いていたが、 「さすが涼宮さんですね。この十日程度でこれだけのパワーを見せ付けてくるとは思いませんでしたよ」 「最近のハルヒのはしゃぎっぷりについてか?」 「そうです。まるで僕たちと一緒にいるのが楽しくてたまらないという感じですね。最初はまさか未来人や宇宙人を集結させて 一体何をするつもりなんだろうかと思っていましたが、このような遊びで満喫しているだけのようなので一安心です」 そうにこやかな笑みを浮かべる古泉。 ま、それがハルヒがSOS団を作った理由だからな。当然といえば当然のことだ。 ふとここで俺はこいつの役割について思い出し、 「そういや、最近お前の仕事のほうはどうなんだ? やっぱり頻発していたりするのか?」 「いえ、涼宮さんも十分に楽しんでいるようでして、全くストレスを感じていないようです。そのためか、閉鎖空間・神人も 全くご無沙汰な状態ですよ。僕も落ち着いて日常的学校生活を楽しめています」 古泉の話にほっと安堵する俺。最近のハルヒの行動は少々違和感を感じていたからな。実はストレスを溜め込みまくっていて、 あの灰色世界で暴れているんじゃないかと不安になっていたが、ただの取り越し苦労で済みそうだ。もっとも、このハルヒは 意識して意図的に閉鎖空間を作っているんだから、たとえストレスを溜め込んでいてもそれを発生していないだけかもしれんが、 あいつの性格を考えるとその可能性も低いと思われる。 古泉は続ける。 「中学時代の涼宮さんとは雲泥の差ですよ。あの時は毎日ストレスを抱えていて、ことあるごとに閉鎖空間で暴れていましたからね。 SOS団設立後では本人の表情もまるで違うのは、入学当初から一緒だったあなたも感じていることなのではないですか?」 「まっ、確かにあいつが元気になったのだけは鈍い俺でもわかるよ。今の学校生活を心底楽しんでいるんだろうな」 事実を知っている俺からしてみると、思わず突っ込みたくなる衝動に駆られてしまうが、ここは堪えて適当に流しておく。 演技を続けるって言うのもつらいもんだ。そういや、俺の世界では古泉がその不満について愚痴を言っていたが、よくわかるよ。 戻ったらご苦労さんの一言ぐらいかけておこう。ああ、ついでに生徒会長にもな。 ふと、ここで古泉は前を歩くハルヒを見つめながら、 「ですが、少々疑問があるのも事実です。SOS団結成前後では涼宮さんの心情は全く異なっている。なぜなんでしょうか。 まるで僕たちが集まるのを待っていて、中学生時代はそれをストレスに感じていたのでは、と疑いたくなるほどですよ」 俺は一瞬ぎくりと心臓の鼓動が跳ね上がった。まさにその通りだった。ひょっとして機関――古泉はその可能性を疑っているのか? しかし、古泉が続けた言葉が少々意味合いが異なっていた。 「つまりですね。涼宮さんは入学式の自己紹介で――これは機関からの情報で僕は実際に聞いたわけではありませんが、 宇宙人・未来人・超能力者を探していたじゃないですか。この場合、長門さん・朝比奈さん・僕が上手い具合に当てはまるわけです。 そして、僕たちがそろったのと同時に涼宮さんのストレスは一気に解消された。つまり、涼宮さんは目的を達成したと認識している 可能性があるということです」 そうきたか。だが、それでも矛盾があるだろ。 「そうなるとハルヒはお前らが普通の人間じゃないと認識していることになっちまうじゃねえか。だが、SOS団設立の時でも ハルヒにそんなそぶりなんてまったくなかったぞ。大体、せっかくそういった連中を集めたって言うのに、やっていることは 普通のお遊びサークル状態だ。何のために宇宙人みたいな連中を集めたのかさっぱりわからん。それにお前らがそれを ハルヒに察知されるようなことをしていたわけでもない」 「涼宮さんは無意識下でそれを望んだんですよ。だからこそ、僕たちが集められた。これはこないだも話しましたよね。 さらにその無意識下での認識でありながら、涼宮さんは現状に満足してしまった。そう考えられませんか? 事実、SOS団の活動であなたも言った通り、宇宙人・未来人・超能力者に関わることは何一つとして言っていませんから」 無意識下ねぇ……実際には無意識どころか待ちに待った連中がついにやってきたんだから、そんなことはないと言える。 しかし、それを言うわけにもいかないから、 「難しく考えすぎじゃないか? 俺には単にハルヒが遊ぶことに夢中になって、そんなことはどうでもよくなったと思っているんだが」 そう別の方向に誘導しておく。あまり深く突き詰められて、真実にぶつかっても困るだけだからな。 古泉は苦笑しつつ、 「確かにその可能性はあります。僕のは個人的な推測に過ぎませんので。しかし、今の涼宮さんは幸せだというのは 確実にいえることですね。以前の灰色の砂嵐だった精神状態からは完全に脱していますよ」 「それについては異論はねえよ……中学生時代のハルヒはよく知らんが、この一ヶ月でもその変化ははっきりとわかっているさ」 ここで俺たち二人の会話が途切れる。前を歩くハルヒはまだ朝比奈さんに対して得意げに語っていた。 日が傾き、空をカラスの集団が飛んでいく。 俺はふと思いつき、 「なあ古泉。一つ聞いておきたい」 「何でしょう?」 「今の立場に満足しているか?」 「十分に満足していますね。涼宮さんの精神状態は安定し、閉鎖空間の発生頻度もほとんど――」 「そうじゃなくて」 俺は古泉の言葉を手で静止してから、 「お前自身はどうなのか聞きたいんだ。ハルヒにここ最近引っ張りまわされているだろ? それはお前にとって、 面白いのかつまらないのかってことだ」 その質問に、古泉は顎に手を当ててしばらく思案を始めた。そして、やがてゆったりと口を開き始める。 「難しい質問ですね。僕としましては、楽しいとかそんな感情よりもどうしても涼宮さんが安定してくれてうれしいという 考えに至ってしまいます。これもずっと機関で彼女を見続けたことが原因でしょう。僕はSOS団の前に、機関の一員なんです」 「そうか……」 俺の世界の古泉とは真逆のことを言われて、俺は少々気分が重くなった。やっぱり今俺の目の前にいるのは、 ただの超能力者・古泉なんだな。SOS団を作ってからまだそんなに経っていないから無理もないんだが、 こう直接言われるとやはりショックを受けてしまう。 そんな俺を見ていた古泉はここで、ですがと話を続け始め、 「確かに今はそんな感情しか生まれてきません。でもたまに思うんですね。機関の一員とか超能力者とかそんな属性を 投げ捨ててみたら自分はどんな気分になるんだろうと。ひょっとしたら、純粋にとても楽しい学校生活を歩めるかもしれない……」 そうしみじみと言った。 そうか。古泉もそういう感情はあるんだな。それを確認できただけでもほっとするよ。 「この際だから言っておくが、俺は現状が楽しくてたまらない。ハルヒはわがままで横暴だが、あいつのやることには どこか興奮させられる部分があるからな。だから――この生活を失いたくない。絶対にだ」 「…………」 俺の言葉を古泉はただいつものスマイルのまま見ていた。おっと、ついでだから言っておくか。 「お前の話を聞く限りだと、どうもこのSOS団をぶち壊しかねない思想の連中がいるみたいだったな。 そいつらの好きにはさせないでくれ。俺は現状を守り抜きたい」 「肝に銘じておきましょう」 古泉の返答からは、それが機関の人間としてのものなのか、SOS団としてのものなのか判断は出来なかった。 ◇◇◇◇ SOS団設立からしばらく経った後、俺は朝倉に襲われた。シチュエーションは俺の世界のときと全く同じで 放課後に教室に呼び出し→ナイフで襲われるという形だった。 この件については事前に予測が出来ていたため、ハルヒと対処について相談していた。なにせ、この世界の現状の推移は 俺の世界とは似通っているとはいえ、根本的にSOS団の活動内容など異なる点も多い。長門の救援が間に合わなかったり あっさりと俺が殺されてしまう可能性も否定することなど出来ない。ただ、それを考えると朝倉が暴走しない可能性だって 十分にあるわけだが、前回の世界といい俺の世界といいそれは低いんじゃないかと思いたくなる上、 殺される恐れがあるなら用心するに越したことはないはずだ。 そんなわけで事前に長門たちの隙を見計らって昼休みにハルヒと相談していたんだが、 ……… …… … 「ふーん、なるほどね。もうすぐに朝倉があんたを殺しに来るっていう可能性があるわけか」 「そうだ。で、当時は長門に助けられたわけだが、ここでも同じになるとは限らない。そこで事前になんかいい手がないか 相談したいんだ」 いつもの非常階段踊り場の壁に寄りかかり思案顔になるハルヒ。 正直なところ、ハルヒに相談したところでどうにかできるのかという疑問もある。こないだのハルヒVS朝倉では、 戦うというより一方的に蹂躙されまくっただけで、最後にサヨナラ逆転満塁ホームランが飛び出して勝利しただけだ。 しかし、だからといって事前に長門に相談するわけにも行かず、古泉にそれとなく話したところであの朝倉と対等に 戦えるだけの力を持っているとは思えない。ああ、朝比奈さんは論外な。実力云々の前にそんな危険なことにあの人を関わらせたくない。 とはいえ、命の危機が迫っているかもしれないのにただ黙っているのは何かこうむずむずしてきて嫌だ。 ハルヒはしばらく黙ったまま考えていたが、 「でもさ、有希ってそういうこと事前に察知できるだけの情報操作能力を持っているような気がするんだけど。 あいつら、あたしたちの言う時間の流れとは異なる概念を持っているみたいだしね。そうなら朝倉に襲われても 必ず助けに来るんじゃないの? 文芸部活動でおかしくなるほどに負荷をかけているとも思えないから」 ハルヒの指摘に俺は腕を組んで考える――と同時に思い出した。そういえば、長門は冬のあの事件を起こすまでは 未来の自分と同期ができるとか言っていたっけ。ん? そう考えると、長門は三年前の七夕の時に未来の自分と同期を 取っていたわけだから、自分が暴走することも知っていたし、そうなると当然朝倉が暴走することも事前に知っていたことになる。 ならあのぎりぎりの救出タイミングはわざと狙っていたのか、長門さん? わざわざかっこよさを演出する必要なんて 長門には全くないからきっと別の理由があるんだと考えておこう。 俺はそれを認識してそれなりの安心感を覚えると、 「ああ、そういや長門はそういうことも可能だって言っていたな。なら大丈夫か」 「そうよ。どのみちインターフェースの動向に関しては連中の内部で処理させたほうがいいわ。あたしが動くとばれる可能性が 飛躍的に高くなるしね。有希なら何とかできるでしょ」 … …… ……… とまあそんな結論至っていたため、安心は出来なかったが特に対応策はとらずに、そのまま朝倉に襲われることになった。 やれやれ、襲われるのをわかっていながらホイホイとそれを受け入れるってのも酷な話だぜ。 結局のところ、途中で長門が助けに来てくれたおかげで俺は無事生還。朝倉も無事消滅させることに成功した。 順調に言ってくれて何よりだ。長門が痛めつけられるのを見るのは辛かったけどな。 ついでに、やっぱり教室に入ってきた谷口を追い出しつつ、長門にメガネをはずして置くように促しておいた。 前回の世界だと結局最後までメガネ姿だったが、やっぱり俺はメガネ属性ないし。 朝倉襲撃に関しては全く同じ展開だったのに対して、その次に会った朝比奈さん(大)との遭遇はなかった。 これに関しては最初は動揺し、何かとんでもない間違いをどこかでしたんじゃないかと不安になった。 なぜなら朝比奈さん(大)がいない=朝比奈さん(小)が未来人オンリーの世界のときのように今後自殺という 悪夢の惨劇が待っているかもしれないからだ。 しかし、当時の状況をしばらく考えてから当然であるという結論に至る。あの時朝比奈さん(大)は白雪姫という キーワードを俺に伝えるためにやってきたようだった。もちろんその意味は、ハルヒによる世界改変の時の対処法についてだろう。 思い出すと耳から火を吹きそうになるから、あまり脳内再生したくないが。 ん? ちょっと待て。ということは朝比奈さん(大)はアレをしろと事前に俺に言っていたわけか? さらに言えば、 あの閉鎖空間で長門がsleeping beautity とか告げてきたが、それもアレをしろということなのか? 二人そろってなんてことを求めやがるんだ、全く。 まあ、そんなことはどうでもいい。それは俺の世界ですでに起こった話であって、この世界では同様の事態は発生しないと 断言できる。なぜかといわれれば、そんなことを力を自覚しているハルヒがするはずがないからだ。やるならリセットだろうしな。 そういう意味で朝比奈さん(大)は俺にヒントを告げる必要が発生しなくなり、その姿をあらわさないということになる。 あのナイスバディを超えたダイナマイトが見れないのは少々残念ではあるが、今後は嫌でも顔を合わせる必要が出てくるだろうから、 それまでの楽しみに取っておくかね。 ◇◇◇◇ そこから夏休み直前まで話を進めよう。何でかというと特に変わったことも無かったからだ。 まず、ハルヒによる世界改変は無し。何度も言っているがこれは当たり前の話だ。 SOS団活動で目立ったものといえば、野球大会に参加に参加したぐらいか。結局一回戦で辞退したのも変わらない。 まあ優勝したらしたで面倒事になるだけだし、ハルヒは辞退すると言ったらムスーとしていたが、まあそれなりに楽しんだようだった。 カマドウマ大発生はいつ起きるのやらとハラハラしていたが、考えたらここのSOS団はHPを持っていないんだから 起きるわけがなかった。 おっと、七夕の話があったな。あれについては、やったことは同じだったが、ハルヒの態度が違うのは当然としても、 そこでようやく出会えた朝比奈さん(大)がちょっと意味深なことを言っていた。 ……… …… … 俺と朝比奈さんが三年前の七夕に戻り、夜の公園のベンチでそのまま朝比奈さん(小)が眠らされた時に、彼女はやって来た。 女教師みたいな服で、年齢は20歳前後、ゴージャスがダイナマイトになったあの朝比奈さん(大)である。微妙に空いた胸元に どうしても視線が行ってしまうのは男の性だ、許してくれ神よ。 「キョンくん……久しぶり」 朝比奈さん(大)は(小)を放って俺の手をつかんできた。本当に久しぶりの再開のようで、その表情は懐かしさを発揮している。 このタイミングで久しぶりとか言われると何だか妙な気分だ。思わず俺は困惑して後頭部を掻いてしまう。 「どうかしたの?」 俺が面食らうかと予想していたのだろうか、不思議そうな視線を向けてくる。いかん、これでは不審に思われるな。 えーと当時はどうやって答えたんだっけ? そう必死に記憶の糸をたぐりつつ、 「あの……朝比奈さんのお姉さんですか?」 「あ、うふ、わたしはわたし。朝比奈みくる本人です。そこで今寝息を立てているわたしよりもずっと未来から来た わたしというところですね」 そうにっこりと笑みを浮かべて説明する。だが、すぐにまた感激の表情に切り替えるとぎゅっと俺の手を握り占め、 「……会いたかった」 その言葉に、俺もちょっと懐かしさを憶える。考えてみれば、こっちの世界に旅立ってからかなり経つが朝比奈さん(大)に 遭遇したのは初めてだった。握られた手から暖かい体温が伝わって来るに連れて、その実感が増してくる。 俺は朝比奈さん(大)が前屈みでこっちを見ているため、どうしても上から胸元を除いているような状態になっているになり、 こそこそと視線を外しつつ、 「えっと、なるほど。わかりました。つまり朝比奈さん+何歳かってことですね」 とりあえずとっとと納得しておこう。こういう状態をあまり長引かせるとボロを出す確率が高くなるだけだからな。 しかし、そんな俺の態度を朝比奈さん(大)は納得していないと判断したのか、頬をふくらませると、 「信じてないでしょ? それに女性を歳で判断するのは失礼です」 「ああいえいえ、信じています。確実に。実際に今俺は三年前に戻るなんていうSF体験をしたばかりですからね。 ちょっと変なことが起きてももうあっさり飲み込める自信がありますよ」 俺はあわてて手を振りつつ答える。 朝比奈さん(大)はホントに?と疑いの視線を俺の目に合わせてくるが、同時にこっちの視線が時たま胸元へ向かっていることに 気が付いたらしい、顔を赤らめつつあわてて前屈みのポーズを解除して直立状態に戻った。 このまま話を止めていても仕方がないので、 「で、その朝比奈さんが何の用なんですか? わざわざ三年前に来て、さらに高校生の朝比奈さんを眠らせるなんて 状況がよくわからないんですけど」 「この子の役目は一旦終了です。再開はもうちょっとしてからね。そして、あなたを導くのはわたしの役目になります」 東中へ行けってことかと考えると、朝比奈さんは俺の思考を後追いするかのように、向かい先――東中へ行くように言った。 全く予言者か心の透視能力を持った気分だよ。 ここで朝比奈さん(大)は一歩離れると、 「時間です。これでわたしの役目も終わり。後はあなたに任せます」 この後に、冬のあの時の俺と落ち合うんだな――いや、ちょっと待てよ? それなら、この世界でも長門のエラーによる事件は 起きるっていうことになる。そして、それを越えられたからこそ、この朝比奈さん(大)(小)が存在しているわけだ。 俺は思わず笑い声を上げてしまいそうになったが、あわてて喉から逆の胃袋の方向へと流し込んだ。何でこんなことに 気が付かなかったんだ。 朝比奈さん(小)がいる時点で、この世界は情報統合思念体による排除行動は発生しない。 朝比奈さん(大)がいる時点で、あの思い出したくもない惨劇も起こらない。 つまり未来人絡みの問題は全て解決したということになる。平穏かどうかはわからないが、世界は存在し続ける。 この事実に、俺はまるで勝利気分になった。当然だろ? あれだけ右往左往・七転八倒を続けてようやくここまでたどり着いたんだから。 よし帰ったらハルヒに報告してやろう。俺の役目も終わったも同然だしな。 だが。 次に朝比奈さん(大)の口から出た言葉は、そんな俺の気分をあっさりと覆すものだった。 「別れる前にキョンくんに言っておきたいことがあります」 「……何ですか?」 少し真剣気味な朝比奈さん(大)の言葉に、俺の気分が若干削がれる。 しばらく考える素振りをしてから、彼女は続けて、 「これから先、キョンくんたちは二つの大きな分岐点にぶつかります。詳細については禁則事項になってしまうので言えません。 その他の既定事項についてはわたしたちがどうにか出来る問題だけど、その二つだけはあなたと――涼宮さんにしか解決できないのものなの」 「……二つ?」 その言葉に、俺は真っ先に冬のあの日の事件が思いつくが、もう一つは何だ? 俺の世界でも朝比奈さん(大)でも対処不能で 俺とハルヒだけができるというのは、ハルヒによる世界改変ぐらいしか思いつかないが、それはとっくに時間的に通過済み& ハルヒがそんなことをするわけがないという結論に至っている。 そうなると、この世界特有の問題がこの先に起きるって訳か。全く9回表に満塁ホームランで逆転したのに、9回裏のツーアウトから 土壇場でまた追いつかれた気分だぜ。 朝比奈さん(大)は真剣なまなざしのまま続ける。 「その二つを超えた先にある未来からわたしとそこで眠っているわたしはやって来ているんです。 でも過去は非常に不安定なものであって、脇道にそれないようにわたしたちのような人間が動いています。だけどその二つだけは こちらではどうしようもありません。自分の力を自覚していない涼宮さんは頼れないので、あとはキョンくんだけなんです」 朝比奈さん(大)にも結局ハルヒについてはばれていないのか。いやそれよりもだ。 「よくわからないんですが、俺が失敗したら朝比奈さんの未来へつながらなくなるっていうことですか? それだと、どうして 今ここに朝比奈さんたちが存在しているのか――ああええと、何か矛盾してる気がしてくるんですけど」 「それについては禁則事項というよりも、わたしたちが用いるSTC理論をあなたに教えるのは不可能だから言えません。 概念も立脚もこの時代に生まれた人に教えるのは無理なんです。あ、決してキョンくんの頭が悪いということではないんですよ? この時間平面状で、その話を理解できる人なんて誰一人としていないってことなの」 朝比奈さん(大)の説明を聞く度に、俺の好奇心が揺さぶられてくるがどうせ聞いたってわからないだろうから、 深く尋ねるのは止めておこう。考えるのに夢中になって俺の正体がばれるようなボロを出したらとんでもないことになるからな。 俺は話を打ち切ることを決めると、朝比奈さん(小)をオンブし、 「とりあえずその辺りは深く突っ込まない方が良さそうなんで、今の役割を果たすことにします。でも、その二つの問題っていう ヒントぐらいはもらえませんか? できれば事前準備ぐらいしておきたいんですけど」 「ごめんなさい。全て禁則事項なんです。それほどまでに難しくてデリケートなものだから。ただ一つだけ言えるのは、 それが起こればあなたはすぐにわかるはずです」 朝比奈さん(大)が申し訳なさそうに頭を下げた。やれやれ、ヒントゼロか。今の時点で当てたら一気に無条件で 甲子園優勝の旗が貰える難易度だな。だが、起こればすぐにわかる――つまり、気を抜いたらあっさりと 見逃すようなものではないということだ。それだけでもありがたい情報かな。 「じゃあ、キョンくんまたね。次逢えることを願っています」 またもや意味深な言葉と共に、朝比奈さん(大)は公園の暗がりへと消えていった。二つの問題が解決されたなら、 やっぱりこの後俺と落ち合うことになるんだろうか。その辺りの茂みを探してみたくなる衝動に駆られるが、 そんなことをしたらいろいろぶちこわしになるかも知れないんで止めておこう。 さてと。 俺は軽いんだろうけど、肉体労働に慣れていない俺には重く感じる朝比奈さん(小)を背負いつつ、東中へと向かった。 ここからはちょっとした余談になる。 俺は東中の門前でそこを乗り越えようとしている子供っぽい人影を発見し、 「おい」 そう声をかけてやった。そいつはすぐに反応して、何よとこっちを睨みつけてきたが、 「……なんだキョンじゃないの。何やってんのよ、みくるちゃんなんて背負って」 「朝比奈さん――というより未来人からの指示だよ。俺の世界でも同じだ。どうせこれから校庭に落書きするんだろ? そのお手伝いをしろってさ」 俺は溜息混じりで答える。 電灯で照らされたハルヒはまだ小柄で、朝比奈さんには劣るもののパーフェクトなボディは未成熟だった。 唯一、俺の世界の七夕と違うのはハルヒの髪が短いってことぐらいか。活動的な性格のこいつから考えれば、 短くするのが当たり前な気もするが、この違いは何なんだろうね? どうでもいい話だろうけど。 そんなことを考えている間に、中学生ハルヒは俺の背中で眠っている朝比奈さんのほっぺを突っつきながら、 「あんた、みくるちゃんが眠っている間に何かしなかったでしょうね?」 「してねーよ。てか今から三年後にも同じことを聞かれたぞ」 ハルヒはジト目で俺の否定に、疑惑の視線をぶつけてくる。しまった、朝比奈さん(大)にチュウぐらいならというのを 確認し損ねたな。やるかどうかはさておき聞けることは聞いておけば良かった。 ここでハルヒはまあいいわと言ってポケットから東中の門の鍵をプラプラさせて、 「じゃあせっかくだからあんたに手伝ってもらうわよ。一人だと結構大変だからね」 「ちょっとそこ曲がっているわよ! 本当に方向音痴ね」 「方向音痴は意味が違うんじゃないのか?」 俺はハルヒのキリキリ声を背後に、線引きをひたすら走らせていた。全く何を考えたら、家でゴロゴロするのより、 こんな犯罪まがいの行為をしたくなるのやら。俺なら絶対に前者を選ぶね。 ほどなくして、石灰を白巨大ミミズが暴走した後のような地上絵が完成する。ん、俺の知っているものとかなり異なるものだが、 何か意味でもあるのか? 「一応意味なら込めてあるわよ。人に言うことじゃないし、わからないように暗号化しているけど」 「おいおい、これ仮にも織姫と彦星へのメッセージだろ? 暗号化なんかしたらわからんだろ」 「良いのよ。そのくらい神様なんだからきっと解除するなんて朝飯前よ」 ハルヒは校庭に描かれた不気味な模様を満足そうに眺める。こんな時だけ都合の良い理論を引っ張り出すなよ。 しばらく俺もそれを眺めていたが、ふと時間の経過に気が付き、 「そろそろ朝比奈さんが目を覚ます頃合いだ。解散しておこうぜ」 「わかったわ。あたしも目的が果たせたからとっとと帰る」 俺は再び朝比奈さんを担ぎ、ハルヒはすたすたと人に散々作業させた割に礼の一つも言わずに校門へと向かっていった。 が、途中で急に振り返ったかと思うと、 「ねえ、三年後みんなちゃんとそろったの?」 距離が離れてしまったため、月明かりだけではある日の表情はわからなかったが、その口調はやや不安げなものに感じた。 俺はできるだけ明るい声で、 「ああ大丈夫だ。お前は喜びを爆発させて、毎日楽しんでいるよ。三年後を楽しみにしておけ」 それにハルヒはほっと肩を落とした。そして、すっと空を見上げぽつりと言う。 「三年か……長いなぁ」 … …… ……… そんなこんなで目を覚ました朝比奈さんと共に長門のマンションへと行き、そこで三年間の時間凍結で現代に戻ってきた。 その辺りは俺の世界と変わりなく進んでいった。 帰った後、ハルヒにはこれから二つばかしでかい問題が待ちかまえていることを告げておいた。当の本人は、 情報が少なすぎるからそれが起こるのを待つしかないと言い、静観する構えを見せていた。 そして、期末テスト明けの部室。 ハルヒが意気揚々と夏休みに何をするか離している間、俺はぼーっと考える。 朝比奈さん(大)が言っていた二つの大きな分岐点。一体何なんだろう。未来に多大な影響を与える上に、 未来人が全く手の出せないこと。一つは冬のあの日の可能性が高い。しかしもう一つは? 俺はこの時それがもう目前に迫っていることなんて考えもしなかった。 ◇◇◇◇ 夏休みが直前に迫り、学校も短縮営業になった部室では、相も変わらずSOS団の面々が生まれた川に戻ってくる サーモンのごとく集まっていた。現在は夏休みのSOS団予定作成ミーティング中である。 ハルヒはホワイトボードを団長席の前に置き、延々と『夏休みにやろうと思うこと一覧』を書いている。 しかし、その量がまた凄いこと。これじゃ、夏休みの全部がつぶれてもおかしくないぞ。お盆は避暑と里帰りを兼ねて 田舎に戻るんだからキツキツなスケジュールは勘弁してくれ。 ――だが、以前から少しずつ感じていたハルヒに対する違和感がここに来て、さらに拡大してきている。何だ? 俺は一体何に気が付いているんだ? 全く自分の心の内が読めないってのも嫌なもんだ。 一通り書き終えたハルヒは、ぱんぱんとホワイトボードを叩き、 「さて、夏休みと言ってもSOS団に休みなんて無いわ。どうせキョンみたいなぐーたらタイプはガンガンに効かせた クーラー部屋でさして興味のない甲子園の生中継を判官贔屓で負けている方を何となく応援するなんていう 無駄極まりない過ごし方をするに決まっているんだから。でも、そんなのは却下よ却下! 充実して二度と忘れないくらいの 夏休みにするんだからね!」 全く元気満々な奴だ。しかし、俺を使った例が適切すぎるぞ。確かに受験勉強とかしていなかった夏休みの過ごし方は ずっとそんな感じだったからな。人の生活を密かに除いたりしていないだろうな? 俺はすっと古泉に視線だけを向けて、 「お前たち――機関とやらは何かたくらんでいないのか? ハルヒの退屈を紛らわせるぐらいに、孤島への旅行パックぐらい 持ってきそうだと思っていたんだが」 俺の世界だと古泉の方からハルヒに進言していたわけだが、今のハルヒの様子から見てどうもそんな雰囲気じゃない。 やっぱりこの辺りで際は出ているか。 が。 「全く……たまにあなたと話していると、本当にあなたが涼宮さんに関わらない純正のESPをもっているのかと 疑いたくなりますね」 げ。 心の中で舌打ちした俺だったが、古泉はそれに気が付くわけもなく、 「あなたの言うとおり、涼宮さんの好みそうな孤島への旅行がついさっきまとまったところだったんですよ。 ただし、涼宮さんは涼宮さんなりに予定を考えてきているみたいでしたから、それとかち合わなければ言うつもりでした」 そう言いつつじーっと俺の方に好奇心を込めた気色悪い視線を向けてくる古泉。 いかんいかん。危うくこんなどうでも良い場所でヘマをやらかすところだった 俺は首筋にたまった汗を乾かそうと、襟首をぱたぱたとさせながら、 「いんや、孤島で事件なんてハルヒが望みそうなところだったからな。ただの推測だ。それに本当にそんなパワーを持っているなら 今頃宝くじや競馬で大もうけして学校なんぞとっくに辞めている」 「それもそうですね」 俺の言葉に、古泉は疑惑からインチキスマイルへと表情を変化させた。さらにハルヒがこっちを指差し、 「こらそこ! なに会議中におしゃべりしているのよ! そんな不真面目な態度を取っていると旅行中は永遠荷物持ちの刑にするわよ!」 「これは失礼しました」 古泉は大仰に頭を下げる。一方の俺はあごに手を乗せたまま、やっぱり何か引っかかるハルヒの態度に困惑していた。 ええい、もどかしい。 ハルヒは腕を回しながら、山登り・海水浴などの大イベントを手で叩きながら、 「こういうのはね、最初が肝心なのよ! つまり夏休みの初日! これがうまくいくかどうかで、全休日が上手く過ごせるか 決まると言っていいほどだわ。そんなわけで、当然強烈なものを一発目に持ってくるのが当然ってわけ。 そうね……海水浴なんてどう、古泉くん!」 「大変よろしいかと」 「何かやる気なさげねぇ……じゃあ、みくるちゃん! 山登りなんてどう? 今の時期は暑いけど、高いところは 眺めも良いし涼しくて良いわよ。みくるちゃんは汗でいろいろ大変でしょ?」 「ふえ? ええっと……確かに汗の処理は大変ですけど、その……ちょっときつそうで……あ、でもいいですよ。 涼宮さんがそこに行くならついて行きます」 「ああもう……そういうこと言っているんじゃないのよ。んじゃ、有希! 読書ばっかりして身体中に文字列がしみこんでいるんじゃない? 温泉に行ってそれを一旦排出するってのもいいわよ。どう?」 「わたしは構わない」 「かー! もー!」 ハルヒは心底いらだったように頭頂部の髪の毛を掻きむしる。何をそんなにかりかりしてんだ。それになんで俺には聞かないんだよ。 俺の突っ込みも無視して、ハルヒはまた次々と案を俺以外の団員たちに出していく。 しかし、元々ハルヒのそばにいるのが仕事みたいな連中だ。ハルヒがそこに行くと言えば、どこだって付いていく。 決して反論や代案を出したりはせずにな。こればっかりは俺の世界でもまだまだ改善されていない部分だ。 だが……ハルヒの行動に対する違和感が俺の中でさらに増大していった。このレベルになってくるとさすがの鈍い俺でも 気がつき始めた。理由は知らんが、ハルヒは焦っている。夏休みが終わるなら時間がないと焦る気持ちもわかるが、 まだ始まってもいない夏休みの予定表作りになんでだ? エスカレートし続ける痛々しさにさすがに見かねた俺は、 「おいハルヒ」 「それならハイキングって言うのはどう!? その辺りでいい場所があるのよ」 「おい」 「あ、宝探しならみんなワクワクしない? 鶴屋さんの家は昔からあるみたいだし、古びた蔵とかあされば宝の地図ぐらい――」 「おいハルヒ。ちょっと落ち着けよ」 俺は自分の席を立ち上がり、ハルヒの肩を叩いて暴走状態を止めにかかる。直にハルヒに触れて初めて気が付いたが、 全身にかなりの汗を掻いていた。顔にも無数の汗の粒が浮き、ハルヒ特有のオーバーリアクションで頭を揺さぶったせいか、 まるで風呂上がりで髪の毛を放置した状態みたいだ。一体どうしたってんだ。 ハルヒは俺を無視して、また何か言おうとして――すぐに口をつぐんだ。そして、しばらく沈黙を保った後、 少しだけうつむいて団員たちから視線を外すと、 「……ごめん、何かちょっとテンパってた」 そうぽつりと言うと、顔を洗ってくると言って部室から出て行ってしまった。本当にどうしたんだ一体。 古泉が少々心配そうに、 「どうしたのでしょうか? 最近もちょくちょく感じていましたが、涼宮さんの様子がおかしいですね。 特に夏休みが近づくほどにその度合いが強まっているように思えます」 「何だ、閉鎖空間も乱発状態だったりするのか?」 「いえそれはないんですが……何なんでしょう」 ハルヒの精神分析担当の古泉もお手上げか。ん、何かまたちょっと引っかかったぞ。ええい、どうして俺の頭は 断片ばっかりキャッチするんだ。粉砕した野球ボールの破片を取っても意味無いぞ。 「涼宮さん、確かにちょっとおかしいですね……あのあの、あたし何かまずいこととかしちゃったんでしょうか?」 オロオロし始める朝比奈さん。……何だか少しわかってきた気がする。 「…………」 長門は読書こそ止めていたが、無言のまま俺の方を見つめていた。なんとなーく理由が…… ………… ………… ああ、そうか。そういうことか。良く気が付いたぞ、俺。 俺は団員全員を順次見回していくと、 「ちょっと聞きたい。みんなハルヒが言っている夏休み初日にどこかに行くのに反対か? ハルヒは今いないから正直に答えてくれ」 「涼宮さんが行くという場所へはどこにでも」 「あたしも涼宮さんと一緒に」 「そう指示されるのなら」 古泉・朝比奈さん・長門の順に答えが返ってきた。全くハルヒがいらだつ気持ちもわかるぜ。 「そうじゃなくてだ。みんなの意思――つまり宇宙・未来・超能力とかそんなの関係なしにハルヒと一緒に 夏休みを過ごしたいのかと聞いているんだよ。組織とかそんなのはこの際無視して答えてくれないか?」 俺の呼びかけに、朝比奈さんと古泉がお互いを見つめ、長門はじっと俺を見たままだ。 やがて、朝比奈さんが手を挙げて、 「あたし、それでも構いません。ただ運動は苦手なので、山登りとか体力を使うのはちょっと……」 次に古泉。 「僕としましては、自分のプランを用意したこともありますので、それを推したいですね。おっと組織の都合とかではなく、 これには僕の仲間も加わる予定なのでそれなりに楽しめるはずです」 最後に長門。 「読書が出来るのなら」 そうだよ。それでいいんだ。 俺は手を置いて、 「だったらハルヒにそう言ってやれ。それだけであいつの違和感は消えるはずだ。ただあいつはみんなと一緒に遊びたいだけなんだ。 ハルヒをそんな特別扱いした目で見ないで、普通のSOS団の団長として見て欲しい」 ハルヒはただみんなを楽しませることに必死なんだ。でも、肝心の団員がハルヒの顔色をうかがっているばかりで、 本当に楽しんでくれているのかわからない。ひょっとしたら無理やり付き合わせているだけなんじゃないか。 恐らくハルヒはそんな疑念があるのだろう。やれやれ、一方的にこっちを引っ張り回すウチの団長様とは大違いなデリケートぶりだ。 まあ、ここの団長ハルヒは何度も喪失感を味わって、二度と失いたくないという気持ちが強いせいで、そんな状態になっているんだろうが。 事実、俺も一度失って以降SOS団に対する執着みたいなものは大きく変化したしな。 俺の主張に、古泉が感心したような笑みを浮かべて、 「なるほど。確かにその通りです。わかりました。涼宮さんが戻り次第、僕の方から孤島への旅行を提案してみます。 SOS団は一人で作られるものではありませんでしたね」 「あ、あたしもそれで良いです。そっちの方がいいです」 「異論はない」 朝比奈さんと長門も同意した。 ほどなくして、顔を濡らしたハルヒが戻ってくる。俺はそそくさと自分の席に戻る。 代わりに古泉が立ち上がり、 「涼宮さん、言うのが遅れて申し訳ありません。実は僕の友人からちょっとした誘いがありまして――」 古泉の孤島招待に、ハルヒが全力で頷いて100Wどころか核爆発の熱球のような笑顔でOKしたのは言うまででもない。 ああ、あとついでに古泉をSOS団副団長に任命したことについてもな。 その日の放課後、どういう訳だか長門・朝比奈さん・古泉は用事があるからと言って別々に帰宅して、 俺とハルヒだけで下校することになった。 「孤島よ孤島! 古泉くんから持ってきてくれるなんて思ってなかったわ! ようやくSOS団も一丸となりつつあるわね! あー、もう待ちきれないわ! 早く出発日にならないかしら!」 古泉からの提案がそんなに嬉しかったのか、帰りになってもまだハルヒのテンションは爆発モードのままだ。 このハルヒにはあの必死さが全くなく、違和感なんてみじんも感じない。ようやく元に戻ったようだな。 「古泉からの意見がそんなに嬉しかったのか?」 「もっちろんよ! だってみんな今までただあたしの言うことに付いてきていただけなのよ? 初めて自分から意思を 示してくれたんだから嬉しいに決まっているじゃない! なんていうか、初めて意思疎通が成り立ったって言うか……」 ――ここでハルヒは少し声のトーンを落として―― 「SOS団を作ってからずっと不安だった。みんなそれぞれの目的だけで一緒にいてくれるんじゃないかとか、 実は嫌々ついてきているんじゃないかって。でも、今日初めて意思を示してくれて、そうじゃないってわかった。 夏休みでばらばらになって、二学期になったら疎遠になっていたっていうのが一番怖かったのよ」 ハルヒには少々悪いが、古泉の孤島はひょっとしたらその組織絡みの可能性があるから何とも言えないんだけどな。 これについては言わないでおこう。それにハルヒに意見を言ったという点が重要っていうのもあるし。 夕焼けに染まったハルヒは少しうつむき、 「あたしはもう絶対にみんなを離したくない。絶対にこの世界を成功させてみせる。組織のためにとかそんなんじゃなくて 純粋にみんなで遊んで楽しめるようになりたい。そうすれば――きっと何もかもがうまくいく気がするから……」 そうだな。きっとみんなで楽しく過ごせる世界が作れるさ、きっと。今までそのために沢山のものを犠牲にしてきたんだ。 にしても、本当に団員を思いやっているんだな。今の内に爪のアカをほじらせてくれないか? 元の世界に戻ったら、 ウチの団長様の茶に混ぜておくから。 だが、ここでハルヒはうつむいたまま立ち止まると、 「ただ――」 そう何かを言いかけた――が、すぐに頭を振って、 「ううん、なんでもない」 そう言ってまた歩き出した。 ……まだ何か不安があるんだろうか? 涼宮ハルヒのSS 厳選名作集 長編 涼宮ハルヒの軌跡
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【登録タグ ID IM ストック操作 フルネーム 矢作紗友里】 autolink IM/SE04-13 IM/S21-102 カード名:桜井 夢子 カテゴリ:キャラクター 色:緑 レベル:2 コスト:1 トリガー:1 パワー:8000 ソウル:1 特徴:《音楽》? 【自】この能力は1ターンにつき1回まで発動する。あなたが【起】を使った時、あなたは相手のストックの上から1枚を、控え室に置いてよい。そうしたら、あなたは相手の控え室のカードを1枚選び、ストック置き場に置く。 冗談じゃないわ。このキャンディを食べて、 私のこわさを思い知ってもらわないとね! レアリティ:C RE illust.- 黒井社長と同様のストック操作を持つキャラクター。一度に効果を発動しても効果が薄いところも同様。 起動タイミングが社長のCIP能力からこちらは起動能力による連動に変わっている。 単純に何度も使えるようになったという点で社長よりも使えるチャンスは増えている。 更に、助太刀によっても起動する為、相手の最初のアタックで助太刀してやれば相手の残りのアタックでクライマックスを埋めやすい状況を簡単に作れるようになった。 反面、レベル2キャラである為、緑以外のデッキにでも無理矢理入れることや序盤にクライマックスを埋める事が出来なくなった為、ある程度デッキを選ぶようになったと言える。 あと、なにげに「桜」。 物憂げなさくらでさがしてきたり黒衣の桜になったりもできる。 ・関連ページ 「桜」?
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花火祭(2005) 涼団扇飾り 価値:1 重量:0.1 備考 「団扇付き浴衣」の合成に使用 入手方法 TDの宝箱で入手。
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西涼軍 張魯 大妖杖 馬騰 神槍 韓遂 猛槍 宋建 大槍 梁興 甲鎗 辺章 程銀 候選 成宜 李湛
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俺がこの学校に入学して早2週間。 今となっちゃあ、あんなに勉強しなくても入れたんじゃないか?と思うものだが、まあ勉強して損したとは思えないからよしとしよう。 ところで俺は今、テニスをやっている。 というのも、部活中だからだ。 ちなみに、このテニス部は男子と女子両方あって、それぞれのコートは用意されている。 名目上はただたんにテニス部であるが、まあ男子テニス部と女子テニス部に分かれていると言っても問題はないだろう。 ただ、顧問の先生が一緒なだけだ。 「はい、じゃあ10分ぐらい休憩」 男子部長が男子部員に言う。 女子のほうはまだやっているようだ。 ちなみに、その中の一人が・・・すっごい実力を発揮している。 涼宮ハルヒ 入学式のときのぶったまげた言葉は、多分冗談だろう。 ただたんに目立ちたがり屋なだけだ。 そのためかどうかは知らんが、いろんな部活に仮入部していってるらしい。 目立ちたがり屋という性格は、嫌われると思うんだがな。 ところで、ここからじゃよく分からないが、5組の教室からこっちを双眼鏡ごしに見ている男がいるが・・・誰だあれ? まあ、そんなことはどうでもいい。 どうせ、俺ではなく、女子のほうだろう。 俺は、いったん近くの椅子に座り、鞄から英語の単語帳を出して勉強しはじめた。 いつからだろうな?こんな、マジメな人間になってしまったのは。 そのおかげで、それなりにいい点がとれるのはいいが、 覚えておきたかった記憶がなくなっているような気がする。 たとえば、小さいころに母さんと行った女風呂の光景とかな。 そういえば、こないだの体育の授業の着替えで、俺や他男子多数が残っているにも関わらず、あそこでものすごい実力を発揮している涼宮ハルヒが、体操服に着替えだしたとき、 俺は思わず見入ってしまった。 そのまま、その映像を脳内保存するつもりだったんだがな、 佐伯さんによって廊下に放り出されたときに、記憶が曖昧になってしまった。 何色だったかな? 黒だったような、赤だったような・・・ いかんいかん、そんなことよりも勉強に集中しなければ。 えっと、『success』は『せいこうする』か。 いかん、またそっち方向に考えてしまった。 「おい、植松」 先輩が話しかけてきながら、俺の隣に座った。 この先輩は、中学のときの部活の先輩でもある。 まあ、中学で、テニス部だったから何人かは知ってる人がいるとは思ったが。 何でこの変態先輩とまた一緒なんだろうな。 「あの子すごくね?男子でも対等で勝負できんだろ」 先輩が言う、あの子とは、涼宮ハルヒのことだった。 まあ、確かにすごいな。 「お前、あの子のこと知ってる?」 「ええ、俺と同じクラスですよ」 「マジで!なんていう名前?」 名前なんて聞いてどうすんだよ・・・とは思いながらも、まあ気持ちは分からなくもないので、 「涼宮ハルヒ・・・だったかな?」と答えておく。 「おいお前、フルネームで覚えてんのかよ!惚れたか?」 「ただたんに、自己紹介のインパクトが強すぎただけですよ」 「なんて言ったんだ?イニシャルのとおり、SでHですとかか?」 「そんなわけないじゃないですか」 せっかく、そっちの方向はさっきから考えないようにしてたのに、そっちの方向に話をもっていこうとしないでください。 一瞬、想像しちゃったじゃないですか。 まあ、とにかく俺は、彼女の自己紹介の言葉を思い出し、簡単に言った。 「普通の人間よりも、宇宙人とかが好き。もしいたらあたしのところに来てくださいって」 「ほー。SFマニアか」 「そうかもしれませんね」 軽く話を流しておく。 今は勉強中です。邪魔しないでください。 えっと、『edge』の読み方は『エッジ』 ・・・チじゃなくてジだぞ。 「俺、ハルヒちゃんと試合してこようかな?」 「部長に怒られますよ」 「なんならお前も道連れだ」 「えっ!ちょ、どういう意味ですか?」 と言ってるときにはもう、先輩に腕を引っ張られていた。 あっ!単語帳が!地面に落ちて汚れた! 「どうもどうも、女子部員のみなさん!今日はいい天気ですね!」 どういう話の始まり方だよ! 「実は、この男が、ぜひそちらのお嬢さんと試合をしてみたいというものでして!」 俺じゃねーよ、そう思ったのは。 「でも、一人じゃ不安なので、ダブルスという形でと思いまして」 先輩と息があうのかは分かりませんがね。 で、その後はしなくてもいいのに、話は順調に進んでいき、 結局、俺と先輩、涼宮ハルヒと誰か女子の先輩でやることになった。 普通に考えたら、こっちのほうが有利だろ。 基本的に、女子より男子のほうが体力があるはずだからな。 話し合いの結果、まずは女子チームが先にサーブ権をもつことになった。 先にサーブするのは、涼宮ハルヒ。レシーブは先輩だ。 涼宮ハルヒはボールをあげ・・・打った。 打たれた球はいったん俺より右側のコートにぶつかり、跳ね返った球を先輩が打ちかえす・・・はずだったんが、 先輩が打った球は空高く飛んでいき、そのまま相手コートの外側に着地してアウトになった。 はっきり言おう。近くで見てよく分かった。 この女ただものじゃねー。 次のレシーブは俺だ。打てるかどうか分からんが、微妙に俺に向けられた先輩の目が怖い。 なんか、アイコンタクトしてるようにも感じるが、何が言いたいのか分かりません。 ところで、涼宮ハルヒがこちらを見る目もどことなく怖い。 そして、先ほどのように涼宮ハルヒはボールを打った。 集中してボールを見る。 よし、打てる。 そんなこと考えてる暇もないぐらい、早いスピードで飛んできたのだが、なんとか相手コートに打ちかえすことはできた。 俺が打ったのが俺から見た左側で、女子の先輩のほうだったためか、その球がこっちのコートに返ってくることはなかった。 涼宮ハルヒはその先輩を睨みつけているよう。 おいおい、先輩を睨むな。 で、試合は続いていって第1ゲームは女子チームの勝ち。 やっぱり、あのサーブはきつい。打ち返すのでせいいっぱいだ。 さて、続いて第2ゲーム。サーブは先輩、レシーブは涼宮ハルヒ。 先輩が球を上にあげ、打った。 そして、その球を涼宮ハルヒは俺のほうに打ち返した。 そして、俺はその球を返す。というより、球から身を守ったといったほうがあってるかもしれん。 真正面にボールが飛んできて、思わずラケットを顔の前に持ってきたからな。 まあ、そのおかげで相手コートのサービスコートに球が入って、そのまま高くとんでいき、なんとか得点を得ることができたんだが。 けれども、第2ゲームも女子チームの勝ち。 どう考えたって、涼宮ハルヒのがんばりのおかげだ。 女子の先輩のほうは、女子の中では強いほうの部類に入るんだろうが、やはり、男子にはかなわないといったところか。 なんとか、サーブを打ち返せるといったところだ。 かくいうこっちも、涼宮ハルヒのサーブをなんとか打ち返せるレベルでしかないんだが。 にしても、あの女、本当に人間か? 宇宙人とか探してるみたいだが、自分がその部類じゃないのか? いや、別に俺は宇宙人を信じてるわけではないんだが。 続いて第3ゲーム。サーブは女子の先輩だ。 ここまで来たら、俺も慣れてきたもので、ようはあの女子の先輩のほうに打てば、球がなかなか返ってこない。返ってきたとしても、強い球じゃない。 涼宮ハルヒに睨まれるが、そう睨まないでくれ。 そんなにずるいやり方じゃないだろ。 ということで、なんとか第3ゲームは男子チーム、つまり俺らの勝ちとなったわけだ。 ここで、気づいたのだが、どうやら女子部員も男子部員も俺らの試合の観戦に夢中になっているよう。 まあ、それなりに面白い試合だとは思うので、分からなくはないが・・・ お前らも、練習しろよ。 さて、第4ゲームだ。 いよいよ俺にサーブ権がまわってきた。 悪いが、サーブには自信があるんだ。 今回も勝たせてもらうぞ。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 先ほどからデュースが続いている。 やはり、この涼宮ハルヒはなかなか手ごわいようだ。 さて、実は言うと次に相手チームに得点が入ったら相手チームの勝ちだ。 俺は、ボールを高くあげ、打った。 涼宮ハルヒが打ち返した。 俺は、女子の先輩のほうに打ち返す・・・すると、 「ちょっと、そこ邪魔」 と言って、涼宮ハルヒが、女子の先輩を押しのけて、打ち返してきた。 確かに、そのほうが勝てるかもしれないが、無茶苦茶失礼だぞ。 だけど、そんなこと気にしてる暇はないので、そのまま打ち返す。 「植松がんばれよー!」 誰かの応援してる声が聞こえる・・・ って、先輩!何やってんですか! あなたも参加してくださいよ。 これじゃあ、まるでシングルスじゃないですか。 仕方ないから、そのまま続ける。 やっぱり、涼宮ハルヒの打つ球は強い。 だが、そろそろこの球にも慣れてきた。 そろそろ、この球をうまくコントロールできそうだ。 俺は相手コートのエッジを狙う。 せいこうしてくれ! トン よし!成功した! いや、確かに成功したんだが、そこについたら打ち返せないだろうと考えた俺がバカだったのか、 普通にボールは返され、油断していた俺はラケットにボールをあてたのはいいものの、そのままラケットごと後ろにぶっとばされた。 なんちゅう威力だよ。 そして、部長がそろそろ帰ってこいと言ったため、そこで試合は終わった。 1-3で、女子チームの勝ちだ。 女子に負けたというのにあまりショックをうけないのはなんでだろう? その後、「あたしやめます」 そう言いながら、涼宮ハルヒはトタトタとテニスコートを出て行った。 慌てて、女子の部長達が説得しに行く。 まあ、それだけなら俺も関係ないから別にどうでもよかったんだが・・・ 「テメーのせいで、ハルヒちゃんやめちゃったじゃねーか!」 と、先輩が怒鳴りだした 何で俺のせいなんだよ! 「お前が弱すぎて、気持ちいい終わり方ができなかったから怒って帰っちゃったんだろ!」 だから、あっち方面っぽい言い方言わないでください。 だいたい、先輩も先輩じゃないですか。 「俺は悪くない。お前がもっとテクニシャンな技を見せなかったから」 なんだそりゃ! 「ああいう子はな、普通な人間じゃ物足りないんだよ。もっと上のレベルをだな」 はいはい、どうせ俺は普通ですよ。 「おいお前ら、さっさと戻って来い。ったく、女に負けるとはどういうことだ」 部長まで怒らないでください。 悪いのは全部、この先輩です。 負けたのは、涼宮ハルヒが強すぎるからです。 ったく、この先輩、いつかノー得点で負かしてやる。 ああ!! 英語の単語帳、誰かに踏まれてる!!
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声優 あ行検索 名前:岡部 涼音 よみ:おかべ すずね 性別:女性 誕生日:1985年11月4日 出身地:千葉県 血液型:- 所属:尾木プロ THE NEXT 出演作品 2012 TV - 夏目友人帳 肆 - 東方の猿面、教師 関連商品 声優 あ行検索
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名前: 斉藤 涼 年齢: 28 性別: 男 性格: 冷静 容姿: 若白髪 眼鏡 武器:ボウガン アーミーナイフ 長所: 医術の心得有り 短所: 体力がない 職業: 学者 一言: 足手まといにならないように努めよう。